2009.05.17 OUT
オフ28p \300
銀桂
攘夷時代、一度だけ関係を持ってしまった二人の再会後の話。
桂の引越しの手伝いをする銀時が見つけた、桂の「宝箱」の中身とは。
【書簡 一、】



引越しの手伝いといっても、銀時には原付しかない。
それでもいいと桂が言ったから、仕方なく出向いたところで納得した。家具も家電製品もほとんどないのだ。というか、ポンコツで使えないというのが正しい表現だった。テレビはしょっちゅう筋が入って、砂嵐になるたびに叩くという。洗濯機もガタが来ており、脱水がほとんどできない状態。冷蔵庫も冷凍室が使えないし、心なしか設定温度よりもぬるめだ。
なるほどこれは全部買い替え時だ、と思っていたのに、桂は全部持って行くという。
「おめー、いくらなんでもコレはねぇって。買い換えろって」
「なにぶん物入りでな。そんな贅沢を言ってはおれんだろう。それに、まだ使えるぞ」
「いや使えねーよ。使えねんだよお前と同じで!ポンコツにも程があんだろ、捨てちまえ!」
「ものを粗末にするのは関心せん」
「そういう問題じゃねぇって。もう天寿を全うしてんだよ!いい加減楽にしてやれっ」
それでも桂は使うと言って聞かなかった。じゃあこの家電はどうやって運ぶのか、と尋ねたところに現れたのは、エリザベスだった。エリザベスは桂の部下のゲジ眉とともに、軽トラを手配してきたのだ。ガタの来ている家電製品を軽トラに積む。あらかたの荷物を載せると、桂は一匹と一人を引越先に向かわせた。
意外に仕事が少なくて内心安堵していた銀時に、桂はここからがお前の仕事だと冷酷に言い放った。襷をかけた桂は掃除用具一式を出してきて、固く絞った雑巾やなんかを銀時に差し出した。
「いいか、ここに来たときと同じくらい、ピカピカに磨き上げるのだぞ」
「イヤ…ここに来たときって、俺知らないんですけど」
「俺は客間から始めるから、お前は寝室から始めろ。サボったら承知しない。だが報酬は弾むぞ?」
桂が不敵な笑いをくちびるに乗せる。
昔からこういった表情を浮かべたときの彼の言葉に裏切られたことはない。それを熟知している銀時は、ため息ひとつで請け負った。

銀時にとって桂の家というのは、初めて入る場所だった。
再会してからというもの、腐れ縁で何度も顔をつき合わせている。けれど桂はああ見えてお尋ね者だ。居場所を教えたことはなかったし、もちろん銀時もそれを聞かなかった。


寝室はすでにがらんとしている。もともと物を持っていなかったのか、それすら銀時にはわからない。けれど桂の性格を考えれば、元から大体こんな殺風景だったのだろうと予測はついた。
少し日焼けした畳は、古いわりに手入れされていて、思ったよりも素足にはやさしい。
手には茶葉の出がらしと箒と雑巾。桂が言うには、出がらしを畳に撒いて箒をかけると良いのだとか。ばあちゃんの知恵袋かよ、内心突っ込みを入れつつ、言われたとおりに手を動かした。
ふと鼻がむずがゆくなって、銀時は派手にくしゃみをした。鼻の奥が埃っぽく落ち着かない。窓を開け放つと、五月のゆるい風が入ってきた。陽射しに思わず目を眇める。そのまま窓の桟を雑巾で拭くと、すぐにすすけて黒くなった。
廊下のバケツで雑巾を濯いでいると、居間で熱心に拭き掃除をしている桂が見えた。もしかしたら桂は長いこと、この家に住んでいたのかもしれない。愛情を持って丁寧に板張りの床を拭いている。襷がけした袖から覗く細い腕が白かったので、銀時は思わず目をそらした。


寝室の押入れを開けると、布団が一組まだ入っていた。銀時は桂に聞こえるように大声で叫ぶ。
「なんか布団一組残ってんだけどー!どーすんだー?」
廊下のむこうから、すぐに大声で返事がある。
「しまった、忘れていた!…あとでエリザベスに持って行かせる、廊下に出しておいてくれ」
布団はよく使い込んであった。薄っぺらいそれを引っ張り出し、廊下に無造作に置く。
ようやく邪魔者がいなくなった押入れを、濯いだ雑巾で拭き始めたときに、銀時はそれに気がついた。
押入れの一番奥に、ひっそりと置いてある黒い箱。小振りの重箱ほどの大きさだ。また忘れ物かと思い、中に入りこんで箱を手に取る。蓋には几帳面な文字で『?宝箱』と貼り紙がしてあった。
「何コレ、宝箱ォ?」
銀時は噴出した。小学生か、というセンスだ。『?』なんてわざわざ書かれれば、誰だって開けてみたくなるに決まっているというものだ。
あいつ、きっと忘れてんだな。
銀時は、さてどんな痛いお宝が出てくるか、嬉々として蓋を開けた。



(To Be Continued…?)

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