「ライン」
2009.08.23 OUT
オフ44p \500
18禁
銀桂 

夏の銀桂。
竜宮編の前後ですがあんまり竜宮編出てきません(笑)
オーソドックスな夏を詰め込んでみました。

ほのぼのマッタリしてますが、ちゃっかりヤってますのでご注意下さい。


〈イントロダクション〉


 汗をかいたジョッキが勢いよく突き出される。中ジョッキの重さにテーブルが音を立て、はずみで泡がこぼれる。黄金色の中に細かい炭酸の気泡が光った。きんと冷えた酒を流し込む。炭酸が喉を打つ感じに思わず声が出る。
 安い居酒屋のカウンタにほとんど突っ伏すようにしながら、銀時はジョッキを呷っていた。

「銀さん、そろそろ止めといたほうがいいんじゃねぇかい?」

「なあに言ってんのオヤジ、まだ五杯目だぜ?だぁいじょーぶだって!」

「今日、ちょっとペース早いねぇ。銀さんあんまり強くないんだから、ほどほどにしときなよ」

「大丈夫だって言ってんじゃん!…呑ませてくれよぉ、いいじゃん今日くらい。暑くてやってらんねーんだよ。明日から海でバイトしなきゃなんねーし、今日はフィーバー出ねぇし、色んなもん溜まってるしよ」

 銀時は、溜まった家賃と、しばらく逢っていない例の男の姿をジョッキの中に見る。最後に逢ったのはいつだったか、もう半月前のことだ。

「ところで銀さん、お勘定はあんのかい?」

「あー?あるよ、多分…」

「ツケも溜まってるんだから」

 言われてばつが悪くなった銀時は、ジョッキの残りをぐっと飲み干して、ようやっと勘定を頼む。もちろんあしは幾分か足りなかった。こうして日々ツケが溜まっていくのだ。
 若干ふらつく足でそそくさと店を出ると、むっと湿った外気が彼の体を包んだ。あんな湿気た店でも空調が効いていたのだと初めて気がつく。

 川沿いのこの店には何度か来たことがある。酔った体に川からの風が心地良くて、そこそこ気に入っている。このところの欲求不満の原因である男とも、何度か共に呑んだ店だ。
 一瞬、川から強く風が吹いた。銀の髪を揺らし、夏の青臭く生命力に満ちたにおいを纏わせる。酒が入っているのに、銀時は不意に体が軽くなるのを感じた。急に走り出したくなる。

 昔から、時折そういう衝動が彼の中を駆け抜けることがある。それは決まって限界が来たときや、こんな風に体が思い通りに動かないときに訪れる。宿酔の上に体ボロボロで宇宙海賊と戦ったとき、敵に囲まれて八方塞りになり、例の男が珍しく弱音を吐いたとき、昔のバカ仲間四人で酔い潰れた後、介抱する奴の首筋が染まっているのを見つけたとき。思い出すと全部その男につながっていくので、銀時はアホらしくなって少し笑った。振り切るように頭を振って立ち止まる。こんな都会にあっても、なだらかな土手はずっと続いていて、終わりが見えない。
 水面は時折月を反射させるけれど、夜に沈んで輪郭がはっきりしない。しかし音が聞こえる。滾々と流れるせせらぎ。それを追い越してみたいという衝動に駆られる。

 軽く息を吸い、ぐっと喉元で止める。
 地を蹴った。
 動くと酔いが回るというが、彼は妙にすっきりと頭が冴えていくのを感じた。衝動に任せて速度をあげる。足から脳に響く地面の感触。耳に風をきる音が響く。汗が首筋をつたって胸元に落ちる。

 もっと速く。風を切って、土を蹴って、さらにさらに加速する。衝動に身を任せているとき、彼は初めて生きていることを実感できるのだ。

 誰も追いつくことのできないスピードまで、もっと速く。





(To Be Continued…?)

back