「the another story」
2009.10.11 OUT
オフ36p \300
18禁
銀桂、銀八桂 

銀桂@パラレルワールドです。
銀桂といいつつ、実のところ銀八桂という…。
「書簡」のアナザーストーリーです(続き物ではないので、これだけでお読みいただけます)。
「書簡」の桂が書いた手紙の行き先と、もうひとつの手紙の話です。
銀八桂がうっかりやってますのでご注意下さい。

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うつらうつらしていたところで、頭をぶっ叩かれて飛び起きた。同僚の服部が書類を回してきたのだ。書類は銀八の頭を叩いた後、デスクに積み上げられすぎた書類に積み上げられる。その勢いに耐えられず、書類の山は音を立てて崩れてしまった。文句を言おうと思ったとき、崩れた山の下に見えた包みに気付いて思わず言葉を失う。折りしもちょうど予鈴が鳴って、職員室から一番遠い一年生のクラスまで行かなければならない銀八は慌てて国語の教科書を引っつかんだ。
教室には何の変哲もない日常があふれている。けれどさっきから彼の頭は、半年前にさかのぼっていた。三年間ずっと、この教室の一番前に陣取っていたあの生徒。うざいくらいに付きまとっていたのに、あの包みをよこして以来、さっぱり音沙汰がない。新生活とはそんなものだ、便りがないのは無事の知らせだというし、新しく好きな人もできたのかもしれない。

銀八は、卒業式の夜に彼を抱いた。そのずっと以前から、彼にそうしてくれとせがまれていたのだ。銀八は今でも彼の切ない声だとか、真剣な目だとかをありありと思い出せる。それから、少し冷えたくちびると細いからだの感触も。
だがそうやって彼の事を思い出すと、ぎりぎりと指先から止められないある種の感情が溢れそうになるので、彼はあえて何も思い出さないようにしてきた。連絡がないと言うことは、おそらく桂も同じように考えているのだろう。
実際、初めての経験だったためか、彼が良くなれなかったのかもしれないし、負担がかかるのを承知で銀八は無理をさせた。それに、彼の言葉に応えたわけではなかったのだ。

そんなことがあって、結局桂は連絡先もよこさなかったために銀八はなにもできないまま、だらだら時だけが過ぎている。唯一残されたつながりは、あの包みだけだった。おそらく中身は以前貸したままになっていた本だろう。
在学中にはいつも忘れてきたと言っていつまでも返してくれなかったのに、急に返却してきた理由はあまり考えたくなかった。もう忘れたいってことなのか、また会いたいってことなのか。それを知るのがどうしてか怖かった。

「…いい加減、片付けねーとなぁ」

放課後の閑散とした職員室で、崩れたまま放置されていた書類の山を前に、銀八は誰に言うでもなくつぶやく。もちろん、書類の山も片付けなければならないのだが、問題は教え子からの包みだ。
あと五秒待って、誰も職員室に入ってこなければ包みを開けよう。誰かが来たら開けるのは明日にしよう。
そんな賭けをして誰かが入ってくるよう祈ってみたが、五秒経っても誰も入ってこなかった。銀八は観念して包みに手を伸ばす。そこでようやく、銀八は包みの異変に気がついた。
本が入っていたはずの包みが、なぜか平べったくなっているのだ。職員室で最初にこれを受け取ったときは、確かにもっと厚みがあった。
まさか、誰か他の人物が開けたのではないか。
銀八は焦り、慌てて包みを準備室に持っていった。
薄暗い準備室の、使い古された可動式椅子に音をたてて座る。包みを観察してみたが、封が破れたり、切られている様子はまるでない。いぶかしみながら開けると、そこには手紙が一通入っていた。
筆で書かれた字。和紙の、といっても上質な物ではなく、手にざらざらした感触の残る紙。
そこに書いてあった宛名に目を見張る。

『坂田銀時 拝呈』

「坂田…銀、時?」

差出人は、確かに桂小太郎と書いてある。
胸騒ぎといおうか、恐怖といおうか、銀八の心臓はなぜか早鐘を打つ。震えそうになる手を抑え、銀八は手紙を読み始めた。



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うとうとしたのは一瞬だったと思った。
隣で眠っているはずの桂を探そうと思ったところで銀時は周りの様子がおかしいことに気がつく。眠っていたのは布団ではなく座椅子だ。長時間座っていたのだろう、尻が痛い。
おかしいと思って彼はあたりを見渡した。見たこともな部屋だ。ご丁寧なことに何も身につけていない。
見たこともない無機質な形の調度品。

「なんだ、こりゃ・・・?」

銀時は桂を探したが、その部屋のどこにも見つからない。
ふと見ると、眠る前に読んでいた例の本が置いてある。開くとやっぱり桂小太郎からの手紙が入っていた。
とにかく状況を把握しなければ。
銀時は部屋を物色した。冷蔵庫にはいちご牛乳のパックが入っている。座椅子の前のテーブルにはメガネが置いてある。押入れの桟にはシャツとネクタイのぶら下がったハンガーが無理やりつるされている。
床には届いた郵便物らしきものが無造作に放置されていた。そのダイレクトメールの宛名を見て、銀時は息をとめる。

『坂田銀八』

銀時は思わず手にした例の手紙を見る。確かに坂田銀八と書いてある。
ここは「坂田銀八」の部屋なのだ。



「坂田銀八」の住む世界は、今までの環境とそこまで変わっているわけではない。大昔なのか、未来なのか別世界なのか知らないが、カレンダーの日付は確かに手紙にあるとおりの年号だ。ただ手紙の出された日付から、半年近くが経っている。
地図や住所、転がっている衣服など、役に立ちそうなものは片っ端から集めた。
あとは何をなすべきか。
なすべきことは決まっている。この手紙を「坂田銀八」本人に届けること、そして手紙を出した「桂小太郎」に会わせてやることだ。
だが銀時は直感的に銀八が戻ってこないことがわかっていた。
俺がここにいるということは、おそらく。
桂は昔、自分に手紙を書いたと言った。それがどこに行ったかわからないままだとも。
銀時に宛てたその手紙が、どこかで銀八に宛てたこの手紙と入れ替わっていたとしたら?
そんなことがありえるのか、とも思ったが、なんやかんやで打ち出の小槌で小さくなったりしてしまうこの世界のこと、今更何があっても不思議はない。
とすると、銀八はここではなく、おそらく銀時と入れ替わっている可能性が高い。そう思い至ったとき、はっと気がついた。
つい先ほどまで飲んでいたような、開いたままのいちご牛乳のパック。テレビもつけっぱなしだ。つまり、銀八という人物が最後にいたときの状況はそのままに入れ替わっているということだ。そして、ここに来る直前の自分の状況とはどんなものだったか。
あろうことか桂と同禽しながらこの本のページをめくっていたのだ。
銀時の顔からさっと血の気が引いた。
この「坂田銀八」とやらは、あろうことか自分の生徒である「桂小太郎」をヤリ捨てにした男だ。そんな男が、気がついたらわけもわからない世界にいて、しかも隣には捨てたはずの桂が、すっぱだかで寝ていたらどうする。
というか、ちょっとそれは許し難い。はっきり言ってしまえば他の者に見せたくないのだ。桂の身体、しかもよりによって自分とあんなことやそんなことまでした後の身体などもっての外だ。自分だって桂の裸を見れるようになるまでに、相当な遠回りをしてきたというのに。
だが歯噛みしていても何も解決しない。RPGで鍛えられた彼の直感が告げる。こういうときはアレだ、この手紙をまず差出人の元へ向かうべきだ。幸いにも手紙には「桂小太郎」の住所と宛名がある。
時計を見るとまだ夜中の二時だ。こんな状況で眠れるのかはわからなかったが、とにかく夜明けとともに出発したほうがいい。
ベッドに横たわっても、隣に桂はいない。別に独り寝が苦痛なわけではまったくないが、先ほどまで隣にいた桂がいないのはやっぱりちょっと、切ないものがあった。
だが「坂田銀八」は、自分と桂のように「桂小太郎」と会うこともないのだろう。それはとてもかわいそうな事のようにも思えた。



(To Be Continued…?)

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