「熱帯夜」
3年Z組銀八先生! 銀八桂 18禁
2010.08.14 OUT オフ44p \400
Special Guest 眺夜 慈雨様(Statues

夏の銀八桂指定本。ライトなテイストで、まったり怠惰にチョメチョメです。
「何事にも全くやる気のな銀八」vs「不遜な桂君」を目指してみました。
大したことはやっておらず、描写もぼんやりしてはおりますが、しつこくだらだらチョメチョメシーンが続きます。
苦手な方はご注意くださいますよう、お願い申し上げます。
なお、ゲスト様といたしまして、眺夜 慈雨様を半ば強引にお迎えいたしました。
慈雨さんの緊縛銀八桂、ぜひご堪能下さい!




 少しずつ傾く西からの日差しが、窓から強く差し込んでいる。がらんとした教室の床には、机やら椅子やらの濃度を増した影が落ちていた。
 梅雨はもうじき開ける。窓から入り込む風は、夏の生命力に満ちた匂いをまとっている。そのまま桂の髪と、銀八のくせのある髪を掠めていった。
「HRで、」
 夏の匂いについては何も言及せず、桂は続ける。
「ん?」
「めんどくさいって、あの話ですが」
「……あー、アレね」
「具体的に何がどう面倒なのか気になって」
 桂は近藤の答案に大きくバツを付けた。視線はずっとテストにばかり集中している。銀八は赤ペンの先と、桂のつむじと、窓から見える河川敷を眺めている。
「具体的に?」
「国語教師のくせに、具体的の意味もわからんか?つまり、「具体的」というのを、具体的に説明すると、」
 頭を小突く音が放課後の教室に反響した。
「んなこたァわかってんだよ、アホ!……ま、要するに、付き合うとか、そういうこと自体が面倒なの」
「あたたた、アホじゃない、桂です。全然具体的じゃないな。例えば、メールでのやりとりが面倒とか、休日遊びに行くのが面倒とか、夜中に送り迎えするのが面倒とか」
 銀八はちょっと眉間に皺を寄せる。メガネのブリッジを触って思案した後、気の抜けた声で、「……全部?」と聞いた。
「イヤ、そこ俺に聞かれても」
「なんつーの?メールも電話もデートもセックスも、全部めんどくせーよ。独りが一番楽だもん」
「はあ、セックスもですか」
「そりゃそーだろ。イヤ違うよ?モテないわけでもテクがないわけでもないけど。本気出したらスゴいじゃん?マジで。けど、セックスするまでのプロセス的なもんが、死ぬほどめんどくせーんだって。そんなんやるくらいなら、別にDVDでいくね?自分のペースで抜けるし」
「そういうもんですか」
「アレ?お前童貞だっけ?」
「……セクハラです。でも多分童貞です。ていうかそうですよね?」
「イヤ、そこ俺に聞かれても」
 桂はちょっと眉を寄せ、難しそうな顔を作った。答案から視線は外れて、今は目の前の銀縁ばかり見ている。
 つまりさあ、銀八はため息と一緒にこぼして、桂の指から自分の安い赤ペンを奪った。
「実際、相手がいりゃあ、俺のペースだけじゃどうにもならねーだろ。向こうも良くしてやんねーといけないわけじゃん。結局動くの俺だから疲れるし。かといって、別に、そこまでいいわけでもなかったりするし。まープロのおねーちゃんならいいけど、んな金もねーし、仕事してたら疲れてそんな気もでねーし」
「……疲れるほど仕事なんてしていたか?今日も結局自習だったろうが」
「疲れるに決まってんだろ、テメーらみてえなアホの相手してんだから」
 銀八は神楽の答案すべてに大きくバツ印をつけ、きれいに0点と書き込んだ。「焦点」の字が「笑点」になっている。
「じゃあ先生は、どうして俺とセックスしているんだ?」
 カラスが鳴くのが遠くから聞こえる。教室内を染める夕日のコントラストがきつくて、二人の顔にもしっかり影が落ちた。桂は、ちょっとむずかしい問題の解き方を聞く声で、銀八に尋ねる。心底不思議がっているのか、ちょっと首をひねった。
銀八は、入学したその時からずっと、桂の担任をやっている。関係を持ったのは、去年の夏休みが終わったころだ。なんやかんやでうっかり始まってしまった関係は、曖昧で不安定なまま、奇妙なバランスだけ保って続いている。
 入射角が浅くて、桂の眼に入った光が鮮やかに反射する。
 虹彩の襞ひとつひとつまで透けて見える眼は、不純物のないガラスか何かの鉱物みたいに光る。同じ光を受けているのに、銀八はといえば、眼鏡のレンズと銀のフレームが光を反射するくらいで、眠たそうな眼は淀んでいた。
 銀八は無意識でばりばりくせ毛を掻いて、小テストの山から次の答案用紙をつまんだ。
「なんでってお前、そりゃアレだろ。お前がどーしても、俺が良いっつーからだろ」
 銀八の握った赤ペンが、桂をびしっと指す。
「……なんで俺のせいみたいになってんですか」
「どう考えてもお前のせいだろーが。先生は別に、ヅラ君のこと、なんとも思ってないから」
「ヅラじゃない、桂だ。言われなくても、そんなことは知っている」
 銀八は赤ペンで軽く頭を小突いた。
「だから、敬語。ったく、なんなんだよテメーは。つか、お前こそなんなの?」
「だから、桂ですっ。まったく、何度言えば覚えるんだ」
「違うから。なんで俺がいいの、って意味だから。ホントそこんとこ、わかんねえ」
 後ろ向きに腰掛けた椅子の背凭れに腕を乗せ、銀八はずいと体を乗り出す。さっきまで桂の頭をリズミカルに小突き続けていた赤ペンが止まり。ついと黒髪が掬われる。細い髪は絡まることなく零れ落ちた。
「それは、ホラ……俺の元ネタのキャラが、先生の元ネタのキャラのことをどうしても好きだっていうからな。仕方ない」
「おーい元ネタとか言うなよ〜」
「先生だってそうではないのか?」
 銀八はしわの寄った眉間を人差し指で揉み、溜息をついた。
「おめーの電波と一緒にしないでくれる?オメーがセックスしてほしいとか言うから、仕方なく付き合ってんの。生徒のメンタルケア的な?ボランティア的な?サービス残業的な」
「そんなことを言った覚えはないっ!俺だって、どっちかといえば別に何もしなくていいんだが」
「へえ、そーなの?」
 赤ペンがふたたび桂の髪を掬った。やっぱり絡まりもせず零れてしまう。不意に太腿を辿る温かさに、桂は驚いて動きを止めた。向かい合って座る机の下から、明確な意図を纏った掌が這っている。
 夕陽が桂の黒い髪に濡れたような光を与えていた。衣替えの時期もとっくに過ぎて、糊の効いたカッターシャツは半袖だ。そのシャツと凛とした面立ちが、短い夏に似合いだった。
 野球部の打つボールの音が聞こえる。階下ではしゃぐ女子の笑い声。
 銀八は桂の学生服の、綺麗にプレスされた折り目をなぞっている。ふれていることは明確なのに、微細な感覚しか残さないそのやり口は、いかにも銀八らしい。
 ノック式のペン先は引っ込められている。そのぬるいプラスチックの感触は、桂の耳をつたって首筋に落ちる。
 それなのに銀八ときたら、楽しそうなふうでも、情に絆されているふうでもない。採点するときと同じくらい、やる気のない眠そうな目でぼんやり桂を見ている。そんな顔をして反応をつぶさに観察しているのか、それとも本当にやる気がないのか。
 指が太ももの付け根に届き、そこで止まった。銀八が軽く首を傾ける。
「こ、んなところで、何を考えている」
 桂の声は上ずって掠れた。小首を傾げたまま、にこりとも、にやりともせずに銀八の口がゆっくり開く。
「じゃあどこでだったら、いーわけ?」
 ペン先はシャツの上から桂の輪郭をくすぐる。
「……教室は、さすがにマズいだろう」
「敬語」
「……マズいです」
 目を泳がせ戸惑いつつ、外から与えられる感触に、桂の五感は捕らわれている。太ももに乗ったままの銀八の手。引き寄せられるようにして桂のかかとが浮き、膝が机にぶつかった。積みあがったテストの山が崩れる。ざら紙は大きく空気抵抗を受け、ひらひら舞った。
「アララ」
 ちっとも困っていない、のんびりした声が教室に落ちる。桂はじっとその光景を見つめ、銀八の声を耳の奥までゆき渡らせる。
 期待、というのが、その桂の心情に一番近い言葉だった。
 銀八は椅子をリノリウムに擦りつける。しゃがんでざら紙を拾い上げ、その表裏を確かめながら、なんでもないふうに口を開く。
「テスト、準備室に持って帰るの、手伝ってくんねー?」
 桂の返事はなかったが、それが肯定だということくらい、銀八でなくても、歴然だったろう。





To Be Continued…



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