「ダブルキャスト」 銀時×桂 18禁 2010.10.10 OUT オフ36p \300 坂田銀時さんお誕生日記念本。 坂本が贈って寄越したプレゼントのせいで、桂が二人になってしまうという、まったりラブ話。 主に銀さんが色んな人(坂本、二人の桂、万事屋のみなさん)に振り回されてくたくたになっています。 可愛いカンジを目指したのですが、結局いつものごとくまったり、うすらぼんやりした仕上がりになっております。 そして相変わらず、うすらぼんやりまったりチョメチョメしていますので、ご注意下さいませ。 銀桂プチオンリー「バースデーファイター」様に捧げます。 |
辺り一辺に黒煙がたち込めて、目がきかない。濁った視界の中、文句やら驚きやら咳きこみが聞こえてくる。銀時もまた、立ちこめる火薬のにおいに激しく噎せた。徐々に視界が晴れてくると、自分の羽織や手が薄汚れているのがわかった。多分全身真っ黒だ。 目の前に、つるんとした長髪が浮かび上がってきた。爆発の直前、この男の手がクラッカーの紐を引いた映像がフラッシュバックして、銀時の頭には瞬時に血がのぼる。 「ヅラアアアア!!テメ、この、バカヤローがァァァ!」 そのまま目の前の羽織の首根っこを掴み、怒鳴りたてる。 「善良な一般市民に対しては、テロ活動しねーんじゃなかったのか?あ?ふざけんなや!家中煤まみれだろーがッ!」 「「ヅラじゃない、桂だ」」 銀時の耳に入ってきたお決まりの返事は、なぜかステレオ音声仕様になっていた。どうやら爆発で耳がおかしくなったらしい。銀時は首を軽く振って桂を振り向かせる。その時、ほとんどクリアになった視界の向こうに、ありえない光景が映って、銀時は動きを止めた。 いま銀時の手が掴んでいるのは、例の白い羽織と青い着流し。そして、ソファの向こうにも、ちょうど今掴んでいるのと同じものが見える。 本格的に感覚神経をやられたかと、桂をとっ捕まえている手を離し、目を擦った。 「あいたたた……アレ?眼鏡が割れたのかな?目がよく見えないよ」 ソファに倒れこんだ新八が頭を振っている。 「ヅラァ、もっと派手なクラッカーじゃないとダメって言ったダロ、ハト的なモノが出ないと駄目アル!って、あり?ヅラ?……ヅラ?」 神楽がソファの向こうの桂と、銀時の足元にうずくまる桂を見比べた。 銀時はソファの向こうを見て目を見開いた。桂の服装だが、爆発のせいで髪がぼさぼさになり、服もよれている。そしてゆっくり足元を見ると、爆発などなかったような、つるんとした髪と、乱れぬ羽織があった。 「……ヅラ?」 小声で足元に向かって呼んでみる。するとその生き物はむくっと起き上がって振り返り、銀時の良く知った顔でのたまった。 「ヅラじゃない、桂だ」 「どうなってんだ?コレ」 異変に気がついた皆は、驚いて二人の桂を見比べる。 「コレって、僕の眼鏡がおかしいからじゃないですよね?いつの間にか3Dメガネになったとか、そんなことじゃないん……ですよね?」 ボロボロになったほうの桂がようやく顔を上げて、もう一人の自分の姿を認めた。と、その瞬間、ボロボロの桂はその場にバタリと倒れてしまった。 「ヅラ、大丈夫アルか!ていうか、どっちがヅラアルか?こいつは誰アルか!?」 混乱しながら神楽がボロ桂(仮称)に駆け寄った。派手に肩を揺さぶられ、ボロ桂はうっすら目を開ける。 「リー、ダー……すまぬ、俺は、もう、ここまでだ」 「桂さん?大丈夫ですか!まさかさっきの爆発で、ついにアタマがいかれたとか」 「ど、どっぺるげんがーだ」 「?なんだって?」 ボロ桂は息も絶え絶えな、かすれた声で続ける。 「自分とまるでそっくりな人物だ……自分のどっぺるげんがーを見てしまった者は死んでしまうのだ……。俺はもう長くない、お前たちが俺の代わりに、志を継いで」 「継がねーヨ!ヅラ、気をしっかり持つアル!」 神楽は何とかボロ桂の目を覚まさせようと、往復ビンタした。 「ドッペルゲンガーじゃない、桂だ」 大声で言い放ったのは、ピカピカしたほうの桂だ。その声を聞いた瞬間、ボロ桂はついに意識を落とした。 ピカ桂(仮称)は仁王立ちで腕を組み、銀時に向きなおる。状況に全くついて行けず、銀時の脳はひたすら混乱を極めた。爆発のショックで全員同じ幻覚が見えているのか。それとも、本当にヅラが分裂でもしたのか。いっそ俺が倒れたいくらいだ、と思ったが、そんなわけにもいかない。 桂のことだから、またおかしな小細工を仕掛けているのかもしれない。もしかしたら、こいつがエリザベスの中身かもしれない。思考回路が滅茶苦茶になった銀時の目に、床に転がった白い箱が飛び込んできた。 『坂田金時君へ』 そう書かれた、坂本からのプレゼントの箱。蓋が開いているが、中身は何も入っていない。 まさか。 銀時はこの瞬間、すべてを悟った気がした。つまり坂本が、宇宙で捕まえたヅラ的ななにか’(宇宙には沢山いそうだからだ、あの手の電波が)を寄越した、ということだ。 「ンのヤロー……!」 「ンのヤローじゃない、桂だ」 よりによって、どうしてこんな電波を!?と、銀時の肩には一気に疲労感がのしかかる。部屋は煤だらけになり、おまけに桂は二人に増えた。俺の誕生日じゃなかったの、と銀時は軽く泣きたくなった。 「銀ちゃんダメだヨ、ヅラ死んじゃったネ」 「死んでない桂だ」 「ていうか、どっちが桂さんなの?」 「俺が桂に決まっている」 いちいち合いの手を入れるピカ桂がウザったく、銀時は思わずその頭をぶん殴った。 「痛いではないか」 ピカ桂はガラにもないだろうに、叱られてしゅんとした。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「クソッ、なんで俺がこんな目に」 ぶつくさ文句を言いながら、もと来た道を辿る。 「つーか、なんで俺が悪いみたいになってんの。納得いかねーぞコラ。あいつもあいつで、もうちょっと言い方ってもんを考えられねーのか」 昔から桂はそうだ。小さい時から、高杉に対しても攘夷派の上の連中に対しても天人に対しても、遠慮がないというか態度が変わらないというか。 もうちょっとあれで可愛げがあればいいのだ。あんま可愛気あっても気持ちわるいので別に大層なことは望まないが、自分にまであんな態度をとる必要はないだろう。一体何年の付き合いだと思っているのか。 もうちょっとこう……そう、あいつみたいに。 銀時はピカ桂を思い出した。あれは基本的には桂だが、もうちょっと可愛げがある。 あれを見ていると、幼い頃を思い出す。銀時銀時、と駆け寄ってきたあの頃。 桂も、ピカ桂みたいに素直だったらいいのだ。おまけにピカ桂は飯も作れるときた。ベタベタとくっつきたがるのは若干リアクションに困るが、悪い気はしない。空気さえ読んでくれたら完璧だ。 もだもだと思い巡らせながら万事屋に帰りつく。結局、手がかりはつかめないままだった。欲求不満もあいまって、銀時はイライラとステップに八つ当たりしながら階段を上がった。 「銀さーん!」 振りかえると、ちょうど新八が戻ってきたところだった。大きく手を振ってから、小走りで階段を駆け上がる。 「どうだった?」 「それが、いろいろ当たったんですけど、やっぱり連絡先見つからなくって。ターミナルまで行ったり、長谷川さんに聞いたりしたんですけど」 「ったく、使えねーなあ」 「そういう銀さんは、どうだったんです?」 「俺はアレだよ、模索中だよ。まあ、大体目星はついたけど」 新八の疑わしそうな視線をやり過ごしながら、玄関の戸を開けた。 「銀ちゃん、新八!おかえりアル!」 いつもは何もしないのに、今日は神楽と美味そうなにおいが二人を出迎えた。 「なんか、いいにおいすんな。カレー?」 ソファにどっかり腰をおろすと、ピカ桂が顔を見せた。今度は割烹着を着こんでいる。 「おかえり銀時」 ピカ桂はやわらかく笑む。不覚にも銀時の息は止まった。最近見ていない、ちょっとどきっとするくらいの笑顔だった。 可愛いとこあんじゃん。 もういっそ、こっちの桂の方がいいのかもしれない。テロだなんだと言わず、こうして晩飯を作って待っていてくれる。それは小さい頃描いた、理想の姿の一片に似ている気がした。 銀時は言葉に表せない色々の感情を噛みしめながら、後を掻く。 「銀ちゃん、キモいアル」 その様を冷めた目で見ていた神楽が、低く吐き捨てた。 To Be Continued… |