きざし
銀時×桂 18禁
2011.06.26 OUT オフ60p \500

オフ60p \500 銀時×桂 ※18禁
村塾時代の銀桂です。
思春期の二人の、不器用でへたくそな初恋の話。テーマは「青春」です(笑)
幼くて、ときどき大人びて、もやもやした感情を抱えながらも、きらきらしている、
そんなのを目指したくて書いてみました。
全編にわたり、村塾時代のため、原作に書かれていない設定を大幅に捏造しております。
また、たいした事はありませんが、性描写がございます。
上記の点に十分ご注意いただきますよう、お願い申し上げます。


木立がまばらになってくると、その合間からきらきら夕陽が交差する。海に反射した鮮やかな光が眩しくて目を細めた。その拍子に思わずバランスを崩して、二人を乗せた自転車がよろける。
「ちょっ、何をぼさっとしているんだ!」
「っ、テメーがよろけるからだろーが!」
銀時は二人分の体重がかかったハンドルを、ぐっと強く握る。手には汗をかいていた。というか、全身汗だくだった。夏の盛りの西日は、容赦なく少年二人の体温を上げる。海からは潮をふくんだ風が流れてくるが、一昨日からのカンカン照りのせいで、吹き付けるのはただの熱風だ。
遠く臨む積乱雲は、成層圏まで突き抜けそうに高い。もしかしたら、明日あたりは大雨になるかもしれない。
銀時の肩に乗せられた手が熱い。しかも遠慮なしに掴んでくるので、銀時の肩は熱さと痛さでじんじん痺れてきた。
もう結構いい歳になるのに、高杉が「誕生日会をするから来い」なんて言うので、二人は冷やかし半分で参加してきた。最初はちょっと小馬鹿にしていたのだが、いざ行ってみると、ありえないくらいのご馳走と新作ゲームやらラジコンやらが溢れていて、二人は馬鹿みたいにはしゃぎまくってきたばかりだ。人生ゲームが関の山だったほかの誕生日会とは格が違う。二人は今までの人生の中で一番というくらい、高杉を褒めちぎり、俺たち親友だよと誓い合った。持つべきものは友人である。
この辺りは、緩やかな下り坂になっている。車輪は勢いをつけて回転を始め、頬に熱風が強く当たった。木立が切れて、海が広がり、光が自転車と並走を始める。
「ここ通んの、久しぶりだよな!」
耳元で騒ぐ海風を振り払うように、大声を出す。
「いつ以来だっけ!?前にアイツんち行ったときかな!」
「そんなに前だったか?!言われてみればそうかもしれんな!」
桂も負けじと大声を出すので、傍から見れば、二人は喧嘩しているように見えるだろう。
「この辺、チャリだと一番気持ちいいよな!」
このすぐ下は切り立った崖になっている。波の砕ける音が、耳の奥に響きわたる。風を切る感覚はやけに爽快で、かいた汗を一瞬忘れさせた。
「だが銀時!ちょっとスピード出し過ぎじゃないのか!?」
 桂の手に一段と力がこもる。肩揉みにしたって、強すぎる馬鹿力で、銀時はうっと息を詰まらせた。
「痛ェェェ!!ちょっ、力入れ過ぎだって!」
「だから!貴様が早すぎるのが悪いんだろーがっ!」
この自転車には荷台がない。車輪のハブに足を引っかけただけの桂は、立っているせいもあって、かなり不安定だ。スピードが上がるにつれて、バランスが取れなくなり、ついにぎゅっと銀時の背中にしがみついた。
「ぅわっ」
背中に圧し掛かった体重に、銀時は驚いて急ブレーキをかける。耳障りなブレーキ音を響かせて、自転車がたわむ。やばい、と思った時にはもう遅かった。慣性の法則で二人は前につんのめり、自転車から転がり落ちた。
「……ってェ……!」
「ぅう……」
とっさに地面についた手のひらと、膝頭が焼けるように痛い。瞼を開けると、まだ車輪を回しながら倒れている自転車が目に入った。そしてその横で同じように這いつくばっている桂の姿も。羽織が捲れ上がって、生白い脚がむき出しだ。
「何すんだよテメーはァァ!」
桂が上体を起こすと同時に怒鳴りつける。擦りむいた手のひらに血が滲んでいた。
「仕方ないだろう!貴様があんなにスピードを出すからいかんのだ!ずり落ちるところだっただろーが!」
「結果ずり落ちたみてーなもんじゃねーか!落ちんなら一人で落ちてろハゲ!」
「ハゲじゃない桂だァァ!」
二人は胸倉を掴み合ったが、打った膝やら肘やらが痛み出して、同時に顔をゆがめ、手を離した。
「っつーか、痛ェェ!」
「奇遇だな、俺も痛い!」
睨み合うのも馬鹿ばかしくなり、二人はその場にあおむけで転がった。擦りむいた手を伸ばしてみる。じわじわ染みる血に土がつき、汚れていた。心拍数はまだ収まらない。
急にしがみついてくんじゃねーよ。
声に出さずにぼやいて、ちっと舌打ちする。桂はまったく意に介さない様子で、そのまま座ってぼんやり海を見ていた。暑さのせいか、その頬が少し紅潮している。高く結った髪がうなじに貼りついていて、銀時はとても見ていられず、目をそらして空を眺めた。




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塾の裏手にはもう人の姿はなかった。ブルーシートもいつの間にか片付けられていて、後に残るのは桜のみ。桂は一人、大ぶりの木の前に立った。
夕陽が降りかかり、桜は不思議な色合いに染まっていた。重なる花びらが黄金の光をまとい、景色すべてが霞んで見える。小さな花は房みたいに身を寄せ合っていた。その雪洞がいくつも連なってゆく。毎年何気なく眺め、当たり前だと思っていたけれど、改めて見ると立派な光景だった。
花に埋もれる黒く太い幹には、朽ちている枝もあった。幾重にも深くしわの刻まれた幹は、どれだけの年月を重ねてきたのだろう。花を潜ってその幹にふれてみる。ごつごつと固い手触りに、不思議な暖かさが感じられる。
枯れ枝の下から、新緑が芽生えているのを見つけた。軽く屈んで、小さな葉を撫でてみる。そのすぐ横に毛虫が一匹ひっついていた。
「ヅラ」
後ろから声を掛けられて、桂はゆっくり振り向いた。
「ヅラじゃない、桂だ」
銀時が立っていた。確か先ほどまで皆と調子よくはしゃいでいた気がする。けれど、銀時は笑っていなかった。
呼んでおきながら銀時はだんまりを決め込んでいる。しびれを切らした桂は、立ち上がって近づいた。
「どうかしたのか」
うつむき加減の銀時を覗き込むと、ゆっくり銀時の視線が桂を捕らえた。
子供のはしゃぐ声が聞こえる。調子はずれの三味線の音、誰かの手拍子。
烏の鳴く声。
銀時が一言、
「抜けだそうぜ」
そう言った。
「抜け出すって、どこにだ」
「お前と寝たい」
銀時はきっぱりそう言った。寝たい、の意味を理解する前に、桂の心臓がばくんと強く胸を打った。その視線があまりに艶めいていたからだ。
何も考えられなかった。夕陽を受けて銀時の目が不思議な色に染まっている。先日くちづけされたときと同じように、桂の脳裏にどうするべきかの選択肢が浮かんだ。けれどそれは、思考の過程で言葉を成す前に、頭から千切れて飛んで行く。
桂は銀時の手にふれた。手が握り返されたのを感じながら、桂は頷いていた。




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夏の庭はきらきら光を放つ。手足にまとわりつく暑さ、虫の声、遠くに広がる積乱雲。庭木は好き勝手に枝を張り、雑草も伸びてきている。また庭の手入れをしてやらないと、なんて考える。
せっかくのお天気なのに、桂は銀時のことなど忘れて、すっかり手元に集中している。それが面白くなくて、銀時は桂の髪に手を伸ばし、ちょっかいを出した。だが桂は集中すると体の感覚が鈍くなる性質のようで、背中をなぞっても、腰を撫でても、ぴくりともせず手を動かしている。
「つまんねー」
ついたため息も無視される。銀時はちょっとムッとしたので、腹いせに無防備な首筋を甘噛みした。今度はさすがに桂も驚き、手を止める。
「何している」
「ちょっかい出してる」
への字に曲がった桂のくちびるをちゅっと吸った。腰を撫でていた手を太ももに這わせる。明らかな意図を含ませて何度も撫でると、今度は桂のほうから口づけをねだってきた。冷えた舌をゆっくり絡ませると、二人を取り囲む空気の湿度が上がる。心地よさに色のついた息を落とすと、桂が銀時の肩を押し返してきた。
「オイ、これ以上はだめだ」
「いいじゃん」
咎める声に取り合わず、銀時は首筋を舌でなぞる。桂の鎖骨あたりに鳥肌が立つのが目に入り、銀時は喉を鳴らした。
「子供たちに、見られるかもしれん」
「じゃあ見せつければいーだろ。保健体育も教えてやらねーと」
「何をバカなことを……。お前のそんな姿、誰かに見られてたまるか」
銀時は驚いて不埒な手を止め、少し赤くなった桂の顔をまじまじと見つめる。心音が一気に加速するのが自分でもわかる。
「おま、それ、ヤベーだろ……だから、そういうの止めろって」
「それはこっちのセリフだ、……ん」
圧し掛かるように体重をかけ、またくちびるを合わせる。傾いだ桂の肘が文机に当たって、がたんと派手に音をたてた。
桂はそれで正気に戻ったらしい。銀時は例の馬鹿力で押し返される。「というか、そろそろバイトの時間だろう」
急に現実に戻されて、銀時はちっとあからさまに舌打ちする。
「めんどくせー」
「めんどくさくない、仕事だ」
ぴしゃりと一蹴され、銀時はしぶしぶ襟元を正す。確かに桂の言う通りで、もう行かないと確実に遅刻してどやされるだろう。
「……帰ったら、続きをしろ」
ぼそっと告げた桂を振り返り、音を立てて軽くくちづける。名残惜しいのを振り切るように、勢いよく起き上がって、すっかり捲れた裾を直した。
「今晩、ウチに泊まってけよ」
にんまり笑うと、自分から誘ったくせに、桂は眉間にくっきりしわを寄せた。
「早く行ってしまえ!」
「ハイハイ」
片手をかざして桂に背を向ける。桂がどんな顔をしているのか、想像して銀時はまた少し笑った。





To Be Continued…



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