「銀ちゃんの恋」

 銀時×桂  全年齢向
2011.10.23 OUT オフ36p \300

現代銀桂。お互い意識したことがありつつも、一定の距離を保っていた二人の話です。
くっつきたいけどなぜかためらってしまう、もどかしくて、読んでいて恥ずかしくなるような(笑)、
両片思いがテーマです。タイトルは「蒲田行進曲」のミュージカル版(某歌劇団の)から。
表紙は、「芋ケンピ」の川岸様にお願いいたしました!




最近、銀ちゃんの様子がおかしい。

神楽はそう言って、頬を膨らませた。

「ボケーっとしてるし、貧乏ゆすりも増えたし、独り言も多くなったアル。大好きだったパフェも食べないし……気味が悪いヨ」

何か思い出したのか、彼女はブルっと身震いした。それから深くため息をついて、手にしたコーンポタージュ味のんまい棒にかじりつく。その様子を見守りながら、桂はフム、と顎に手をやって考え込んだ。
パチンコ屋裏の小さなこの公園は、神楽お気に入りの場所のひとつだ。いつもは子供や段ボール暮らしの皆さんでにぎわっているが、今日は砂場で遊ぶ子供が二人いるだけだ。
特等席のブランコに腰を掛け、神楽は足をぶらぶらさせる。隣のブランコに腰かけた桂も、彼女に習って足を揺らした。

「銀時は昔から頭も様子もおかしい奴だったが、それとはまた別なのか?」

「ウン。いつもの三倍くらいは気持ち悪いアル」

「三倍はさすがに酷いな。他に何か、変わったところはあるか?」

「イチゴ牛乳を飲まなくなったアル。それでプロカインだかプロテインだかを飲み始めて、夜中に筋トレとかしてるネ。あとは鏡をやたら気にしたり……オエェッ、思い出したらマジでキモチ悪くなってきたアル」

「あいつが筋トレだと? そんな馬鹿な。それに、いまさら鏡を見たところで、何も変わらんだろうに……ん? 待てよ、まさか、」

男が急にこんな行動に出るとしたら。その理由は大体相場が決まっている。

「これはもしかして、」

と、桂はそこで言葉を切った。隣の神楽は目を輝かせ、桂を覗き込んでいる。その純粋で幼い瞳に、桂は少しうろたえた。

「何かわかったアルか?」

「あ、イヤ。ええと……リーダーには、まだちょっと早いかもしれん」

「早くなんかねーヨォ、ワタシはもう立派なレディネ。ごちゃごちゃ言ってないで、教えるアル!」

「そうだな、失礼した。だが銀時のことは、リーダーが気に病むような問題ではない。ここは旧知の仲である俺が、一肌脱ぐことにしよう」

「マジでか。マジで脱ぐのか? 変態アルか?」

「変態ではない。悩める銀時の力になってやる、ということだ」

桂の言葉に、神楽は思い切り顔をほころばせた。

「流石はヅラアル! 頼りになるネ!」

「……ヅラじゃない、桂だ」

そう言った桂の声は、なぜか少し沈んでいた。
けれど神楽は、このとき桂が痛む胸の内を必死に隠していたことには、気が付かなかった。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




「何やってんの、ヅラ」

「ヅラじゃない、屋台のおやじだ」

店主の桂は、ねじり鉢巻の下の細眉を吊り上げた。

「何で指名手配中の攘夷志士が! おでん屋やって路上フラフラしてんの!? しょっぴかれてーのかコノヤロー!」

「うるさいぞ、食うのか? 食わんのか? はっきりしろ」

桂は眉をしかめたまま、粗末な椅子をびしっと指さした。すると条件反射なのか、あ、食べます、と言って、銀時はがたつく椅子にそそくさと腰をかけた。桂はすかさず瓶ビールとグラスを卓に突き出す。グラスに描かれた銘柄と瓶ビールの銘柄が違っている。この適当さはさすが桂と言うべきか。まったく気が利いていない。

「何にする?」

畳みかけられた銀時は、戸惑った表情のまま手酌でビールを注ぎ、とりあえず大根ちくわ玉子に白滝をリクエストする。桂は言われたそばから種を鍋から引き上げる。一度、玉子がつるんと箸から滑って鍋に落ち、出汁が飛び散って銀時の手にかかった。もちろん銀時はぎゃあぎゃあ文句を言ったが、桂はまったく気にせず、ついでに盛り付けの見た目も気にせず、白滝がほどけてぐちゃぐちゃに乗っかった椀を差し出した。

「で? 何で呑気におでん屋なんかやってんだよ。あ、ついに転職した?」

「転職じゃない、アルバイトだ。というか、代打だ。この店をやってる男がいつも情報を寄越してくれるんだが、ちょっと腰を言わせてしまってな。治るまでの店番を頼まれたんだ」

どうだ、結構似合ってるだろう? と桂は屋台スタイルを自慢げに見せびらかした。濃いよもぎの甚平にねじり鉢巻、紺の前掛けをしている。

「知らねーよ。っ、あちちッ」

桂はこんにゃくと格闘を始めた銀時のグラスにビールをなみなみ注ぎ足した。

「つーかお前、アレは? ペットは今日はお休み?」

「エリザベスなら、俺の代わりに会合に出ている」

「え、おかしくね? 逆だろ普通。なんで党首自らバイトで休んでんだよ」

「エリザベスにはこの屋台がちょっと小さいんだ。屋根に頭が引っ掛かってしまうようで、どうにもかわいそうでなあ」

「お前、そのデカブツをペットにしてることに、そろそろ疑問持たねえの?」

「何言ってんだ、あの大きさがカワイイのだろーが。貴様は分かっていないな」

「わかんなくていーです」

ため息とともに吐き捨てた銀時は、味の良く染みた大根を口に放り込んで、ビールをぐっと流し込む。

「最近また顔見せねーと思ったら、こんなアホなことやってたのかよ、ったく」

そんなことを言うので、桂はまじまじとその顔を見てしまった。いつか、桂の手をぎゅっと握ったあと、似たようなことを言っていたのを思い出す。何の感情も乗っていなさそうな顔をじっと観察していたら、気がついた銀時が何見てんだ、とねめつけてきた。
桂は柄にもなくそわそわして、うっかり鍋の縁に手をついてしまい、その熱さに飛び上がった。
バカじゃねーの、と罵りながら、銀時は呑気に追加の注文を言いつける。おでんに文句は言わないのだから、味は悪くないということだろう。桂は空になった椀に満足する。といっても、もちろん仕込みは一切させてもらえず、本当の店主の嫁が仕込んでくれるだけだった。ちなみに桂はその嫁に少なからず頬を染めている。
がんもに厚揚げ、ハンペンを椀に突っ込んでいると、本日二人目の客がやってきた。

夜より暗い全身真っ黒な制服。白く煙る煙草の匂い。かの真選組の鬼の副長、土方十四郎だ。






To Be Continued…



back