「すばらしい日々」
 銀時×桂
2012.08.11 OUT オフ28p \200

原作設定の銀桂です。かぶき町で再会してから、ヨリを戻すまでの銀桂の話。
まったりしていて、糖度は低めです。両片想い。俺とお前と攘夷と万事屋、みたいな感じです(謎)



陽炎の立ち上る遊歩道を、乾いた草履が踏みしめる。擦れて乾いた音が足元にわだかまって、背後の自動ドアの開く音をかき消した。だから、後ろから頭をどつかれた桂は、何の抵抗もなく前につんのめって地面にめり込んだ。
「オイ、ヅラ。何ボサッとしてんだコノヤロー」
どついたのは、言うまでもなく銀時だった。
「あたた………」
すりむいた額をさすりさすり振り仰ぐ。逆光で表情までは良く見えないが、不機嫌そうに突っ立っている幼馴染の姿が視界に飛び込んでくる。両隣には、例の少年と少女が顔をのぞかせていた。少年は少し困ったように眼鏡のつるをいじって、少女は銀時そっくりのふてぶてしさで腕を組み、仁王立ちでこちらを見下ろしている。
「何をする。つい今しがた退院したばかりなのに、また入院させる気か、貴様」
「邪魔だっつってんのに、聞いてなかったのはテメーだろが。入口で止まってんじゃねーよ」
しっしと手を振り追い払う仕草に、ムッとしながら立ち上がる。袈裟についた埃を払っていたが、不思議なことに銀時一行は立ち去らずにじろじろと桂を観察していた。
「なんだ? まだ何か文句があるのか」
「や、アレは? お前のペット的なアレ。一緒じゃねーの?」
「……エリザベスなら、内野さんと少し話してから帰るそうだ」
「フーン、そっか。結局アイツだけがリア充かよ。なんか納得いかねーんだけど」
「だから言ってるだろ、そんなふうに心が狭いから、貴様はモテんのだ。自業自得だ」
「だから、それは天パのせいだっつってんだろ!」
桂の胸倉をつかむ勢いで、銀時が睨みつけてくる。負けじと睨み返していたら、ふと銀時が視線だけを斜め四十五度に落とした。
「銀ちゃん、はやく帰ろーヨ」
少女が銀時の袖を引いている。
「そうですよ、こんな炎天下の中、立ち話なんてやめてください」
眼鏡の少年は、夏の色をした鮮やかな袴をひるがえし、少女を連れて歩き出す。植え込みの緑によく映えて、桂の視界を眩しく染める。
「お前、こっからどう帰んの?」
「……俺の住処は、たとえ貴様だろうと、企業秘密だ」
「企業じゃねーじゃん。まァ、どうだっていいけど。じゃっ、俺らは電車だから」
「俺に力を貸すなら教えてやらんでもない」と、勿体つけて言おうと思っていたのに、銀時は相変わらず薄情な男だった。
少年少女を、のらくらした足取りで、のんびり追う背中。昔はあれがとても大きく見えたのだが、今のそれは、しょっぱいオッさんの風情、という表現がぴったりだ。桂の性質にしては珍しく、複雑な思いがする。
「待て、銀時」
声を張ってみたが、銀時は振り返らなかった。ただ眼鏡少年だけが、ちらりと視線だけこちらに寄越す。
桂はまったくめげることなく、真っ白な足袋を踏み出した。
「俺も電車だ」
桂は足が速い。子ども二人の歩幅に追いつくなんて、造作もないことだ。
「お前、電車とか乗っていいワケ? しょっ引かれんじゃね? 駅とかポスター貼ってんじゃん」
アレ見るたび、オメー写真のデコに『肉』って書きたくなるんだけど。
心配しているのか違うのか、鼻をほじりつつ銀時が視線を寄越してきた。何を考えているかわからない、澱んだ視線を。
「別段問題ないだろう。来た時も電車だったが、何もなかったし」
「そーなんだ? でも、この前ヘリとか乗ってたじゃん? アレは? つーか、ヘリがあんなら、ついでに俺らも乗せてってくんない?」
「アレは攘夷活動で必要なときのみ使うヘリだ。プライベートでは使わん。貴様らを乗せるようなムダ金、どこにあるっていうんだ」
「へー。昔と違って、結構カネ持ってんだと思ったけど。ケチってんのな」
再会後、何度か顔を合わせたことがあるが、銀時はこうして時々、前触れもなくあっさり昔の話を持ちだした。もう攘夷はやらない、なんて強く言うから、思い出したくもないのだろうと思っていたが、そういうわけでもないらしい。けれど、なんの感傷もこもっていない口調が、かえって未練のなさを伝えていた。



……



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