すれ違いざま




最近オープンしたばかりのこの団子屋は、「オシャレなオープンテラスと心地いい個室空間」が売りだったが、個室は3名以上でないと使えないし、オープンテラスはただの椅子で、とどのつまり普通の茶屋だった。
土方はいつものようにみたらしにマイ・マヨをたっぷりとかけた。しょうゆの香ばしさにはマヨネーズがよく合う。
マヨの滴る団子をほうばったところで背後の気配に気づいた。

最後に桂と逢ったのはもう3週間も前だ。
土方は桂の行きつけの蕎麦屋に何とか頼み込んで、やっと今日、桂を呼び出したのだ。
今日の桂は変装はしていなかったが、笠を深くかぶっている。
土方は公務中だったが、ジャケットを脱いで、スカーフはずしていた。
真選組が攘夷党の党首と団子屋で密会など、あってはならない。せめてものカモフラージュだった。
土方が大きく息を吐くと、煙草の煙が流れてきたのか、桂が咳き込んだ。

捕まえられる距離にいるけれど、卑怯でたまらず、土方にはそれができない。


「それで、何用だ」

頼んでいたゴマ団子を受け取ると、背中越しの桂が小声で聞いてきた。

「お前、いつこっちに戻ってきてたんだ?」

「・・・つい3日ほど前だ。こちらの都合も聞かずに呼び出すなど・・・」

「つーかテメェ携帯ぐれェ持っとけや」

「何でもすぐ楽をしようとするのは関心せん。日本人らしく手紙を使え」

「いや、テメェ住所不定だろが」

桂はその土方の言葉を無視して茶をすすった。

「というか、俺は今日は忙しいんだ。用がないのなら帰る」

桂が立ち上がろうとしたので、土方は慌ててその手首を掴む。

「なんだ?貴様もこんなところで油を売っている場合ではないだろう」

声は抑えているが、本当に急いでいるのだろう、桂の声には少し焦りがうかがえた。

「・・・これを」

土方は手のひらに小さな紙を握らせる。

「紙爆弾とか、そんなんじゃないだろうな」

「おめーじゃねェんだから、そういうのはねェよ・・・」

そのとき土方の携帯からプリキュアファイブの着うたが鳴った。
渡すだけ渡したので、土方は勘定、と言って立ちあがり、桂を置いて店を出た。



桂は土方が去ったあと、手の中の紙を見る。それは役所の書類の切れ端のようだった。
時間と場所が走り書きされている。
その下に、何か修正された跡があった。
何だろうと、紙きれをひっくり返して日にすかしてみる。

『早く逢いたい』

消されたはずの一文を見て、飲んでいた茶を噴出しそうになった桂は激しくむせた。

「こんな恥ずかしい小細工をしおって・・・」

急いでいたのか、意外に雑な感じの字。だが丁寧に書けばまっすぐで几帳面な字を書くのだろう。
桂はそんな紙きれなど破ろうと思ったが、ちょっと考えて、くしゃくしゃに丸めた。

「・・・若造が、青臭いことをしおって」

桂はつぶやいて、丸めたそれをそっと袖にしまう。
勘定、と言った桂の声は幾分か上ずり、桂はひとり赤面した。

精神的なすれ違いはもとより、物理的にただ単に文字通り「すれ違う」、というシチュエーションに萌える性質です。

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