高桂 パラレルです。
しかもよりによって物書きパラレル・・・
実際の人物とかには全く関係ございません!だから勉強不足でも許してください石投げないでください〜・・・
イチの中では死ネタではありませんが、うっかりするとそんな感じに見えなくも無いので、苦手な方はご注意ください・・・!!!




有る男の話





生まれつき肺が弱かった。
体に障る、といって医者に激しい運動を禁じられていたので、筋肉のない、なまっ白い子供だった。
家は裕福だったので、不本意ながら親の金で好き勝手に暮らすことが出来た。
最初に世の中に絶望したのは13のときだった。父親が下女に乱暴するのを見てしまったのだ。清廉潔白で厳格だった父の浅ましい姿に、その父の子であることを激しく呪った。
次に絶望したのは15のときだ。医者に20歳まで生きられぬと告げられたのだ。そのとき俺は自棄になって騒動を起こし、左目をつぶしてしまった。
こんな田舎でおちおちと死ぬわけにはいかない。
そう思って東京の有名な高等学校に入った。
幸い頭は良かったから、その後帝国大学に入学し、文学と芸術にふけった。
高杉の名を出せば大抵の者は言うことを聞く。病弱なそぶりを見せれば、女は甘やかしてくれる。
煙草を吸い、郭に通い、デカダンの世界に浸り、ゴッホの絵画と志賀直哉の文学を愛した。

大学には二つ上の幼馴染がいた。
銀時と桂。
銀時は頭は悪いが、武に長けていた。奔放で、何を考えているのかわからぬ男だ。
対して桂は、眉目秀麗で、真面目を絵に描いたような男だった。世話焼きで、幼い頃から引きこもりがちだった俺に何かとかまってきた。
二人は先に東京に出てきていた。医学の勉強をする桂と、萩を出奔した銀時が同じ下宿に住んでいると知って、俺は驚いた。桂は幼い頃こそ銀時と仲が良かったけれど、ああいった不真面目な輩といつまでもつるんでいるとは思えなかったからだ。
俺が東京に来たと知って、桂はよく俺を訪ねるようになった。
桂は勝手に来てはくどくど説教をした。
奴には一生かかってもデカダンスを理解できないだろう。

本格的に文学に取り組み始めたのはそれからだったように思う。
最初は欲望と退廃に満ちた世界を表現することに躍起になっていたが、やがて俺は「美」を求めるようになった。
この腐った世界には理想の美は存在しない。理想の美は、俺の頭の中にのみ存在し得る。その美を表現するのは、この世でただ一人、この俺を除いて他にはない。
物を書くようになってから、病状はゆるやかに悪化していった。医者の言葉を裏切って20歳を越えたけれど、いやな咳が出るようになった。
桂は相変わらず下宿に来た。奴は酒や煙草を勝手に捨て、ろくな飯を食わない俺に夕飯を作って食わせた。
俺のだらしの無さを叱り、俺の愛する絵画を好んだ。
桂に自分の書いたものを読ませたことは無かった。もし奴が読めば、破廉恥だと怒鳴りたてられ、筆を折られると思ったからだ。
けれど桂が俺の気に入りの絵を好きだといったのはうれしかった。
桂は少し垂れた目を大きく開き、頬を高潮させながらそれらを眺めていた。そのとき俺は、自分の表現したかった理想の美をこの口うるさい幼馴染の中に見出だした。

それからは桂がかまってくれるように、さらにだらしの無い生活を送るようになった。桂の好みそうな、西洋の硝子細工や陶磁器の写真集を見せてやったり、桂の好きなきれいな青い硝子のコップを買った。
たまには桂の下宿をたずねた。桂の隣室の銀時は常に寝ているようで、顔を合わせることはほとんどなかったが、奴のいびきはよく聞こえた。

俺は桂のことを小説に書き始めた。
すでにこのときには喀血が始まっており、うすうす先がないことを感じていた。それでもこの世で最上の美を、この手で表現する喜びにあふれていた。
書き始めてしばらくたった頃、桂の下宿を気まぐれに訪ねたことがあった。
桂の部屋の前に立ったとき、嫌な予感がして耳を欹てた。
何事か声がする。
そこで初めて、俺は銀時と桂の関係に気づいた。
二人が睦み合う声がきこえたのだ。

「なあ・・・っ、今日も高杉のとこ、行くの?」

「なぜだ・・・?」

「・・・行くな」

銀時の言葉に桂は答えない。ただ潤んだ声がする。

「行くなよ。・・・だって、桂は俺のじゃねぇか」

桂が銀時の名を呼んだ。
そのときに間が悪く咳がこみ上げてきたので、慌てて外に出て思う存分血を吐いた。
理想の美は、銀時の手で汚された。
怒りと絶望のままに今までに書いた原稿を破り捨てようとしたが、出来なかった。
桂を汚されたたことはもちろん、それでもなお桂を美しいと思い、浅ましく恋焦がれる自分を知ったことに絶望した。
それまで女に桂を重ねるのを禁じていたが、その日は絶望しながらも桂を想って罪悪にふけった。

二日後に桂が部屋に来た。
そのとき俺はもうどうしようもなくなって、酒を浴びるように飲んでいた。
咳が止まらず、肺の奥が痛い。痛み止めを飲んだが、酒のせいで効かないようだった。薬を飲みすぎたせいか、もう立つこともままならなかった。

桂は部屋に入った瞬間に青ざめ、しきりに俺の頬をたたいた。
自分の服が汚れるのもかまわずに俺を抱き起こし、布団に寝かせ、血で汚れた体をぬぐった。さらさらした寝巻きを着せ白湯を飲ませてくれた。
銀時の手で汚されているはずなのに、桂はとても美しかった。外見だけではない。その精神のまっすぐしたところが美しいのだと理解した。俺が絶対に手に入れられない、そのひたむきさとか。

このままここにいては、桂にも病気が移ってしまう。
俺はそういって桂を帰そうとしたけれど、頑として譲らず、桂はそのまま部屋に居座った。
粥を食べさせてくれる桂の腕に甘えながら、俺はもう何年も流すことの無かった涙を流した。
桂は何も言わず、ただ俺をずっと抱いていた。

それから俺は一心不乱に桂の小説を綴った。
いままで見てきたあらゆる美しいものを通して、桂のイメージが現れた。
もはやこの身では行くこともできぬ遠い外国の風景や、聞くことも出来ぬ名も知らぬ民謡の美しい調べ。
退廃も快楽も苦悩も、喜びも切なさも幸福も。
全てを通して、桂の中に存在する美を描いた。
最後の校正を済ませたときには、すでに2月が経っていた。
空が白んでいる。朝の光が眩しかった。
この手のなかに、最上の美がある。
この世には存在し得なかったはずの、理想の美が。
今まで書いたどの詩も桂には見せたことが無かったが、これだけでいい、いつか桂の目に触れることがあればいい。

そう願いながら、ゆっくりと目を閉じた。


イチは梶井基次郎が好きだったんですけど、どうにもそのあたりのデカダンス的作家が高杉と重なります。ので、つい書いてしまった。楽しかったですよ・・・(笑)
本当は高桂でやってほしい梶井エピソードがあるのです・・・↓

ある晩、梶井(高杉)がとなりに住む詩人(桂)を襖越しに呼びます。
「葡萄酒を見せてやらうか…美しいだろう…」
そう言って、高杉はガラスのコップを電灯に透して見せるのです。葡萄酒は鮮明で美しかったのですが、実はそれはつい今しがた彼が吐いたばかりの喀血だった、というエピソード。

これは梶井のおとなりに住んでいた詩人の話なんですが。「私=桂」「梶井=高杉」で想像するとものっそい萌えます私だけでしょうか・・・。イチの中では既に映像化されております。
こんな妄想につき合わせてしまってすみません


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