何かと顔を合わせる機会は多かった。
僕は口数が決して多いほうとは言えないし、二人と直接会話をしたことだってそんなに多くはない。妙ちゃんや新八君とは気兼ねなく話せるのだけれど。
そういうわけで、なぜこれに気付いたのかと問われれば、自分でもよくわからない。これも女の勘なのだろうかと思うと、若干複雑だ。



『秘密』



今、目の前では、人生をかけた壮絶なガチンコ勝負が繰り広げられている。一見単純だけれど、なかなか奥が深いゲームで感心する。それから、ルーレットを回す感覚がちょっと・・・気持ちいい。そのルーレットを回した銀さんが、車型のコマを進める。

「『転職のチャンス!転職する場合は職業カードから転職する選び、次の給料日まで進む』・・・っしゃあァァ!!チャンス到来ィ!ちょ、ヅラあれ取って」

「ヅラじゃない桂だ」

隣に座る桂さんはため息をつき、いつもセリフとともに、無表情で職業カードを銀さんに手渡す。

「何にしようかな?医者も捨てがたいな?でもタレントもいいし・・・」

「銀時、『攘夷志士』というのは」

「ねェんだよそんなカードっっ!!」

銀さんが桂さんを平手でひっぱたく。ドタっと桂さんは崩れ落ちる。さすがに痛そうだったが、その場の全員は思わず噴出してしまった。

「ふっ、甘いな銀時・・・カードをよく見てみろ」

叩かれて跡の残る頬をしきりにさすりながら、なぜか桂さんは不適な笑みを浮かべている。

「あ?」

その言葉にみんなが覗き込むと、職業カードの束に『攘夷志士』と手書きされたものがまぎれていた。

「テメっ、なに変なカード混ぜてんだっ?!・・・しかも何コレ、『給料はルーレットを回して出た数字×1000円』?生活どんだけ不安定なんだよ!お前の生活まんまじゃねーかっ!!」

銀さんは烈火のごとく怒り、桂さんをさらにぶん殴った。その様子を見て長谷川さんが苦笑する。

「いや、銀さんだって似たようなもんだろ」

「オメーもナ、マダオ」

「イヤ、九兵衛さん以外全員そんな感じだから神楽ちゃん」

新八君がすべてを片付ける。

「決めた。俺弁護士になるわ」

銀さんは職業カードの中から誇らしげに弁護士カードを引き抜く。月々の給料はなかなかの額だ。

「フフ、銀時。やはりお前は俺と同じ志を持っているのだな」

桂さんはなぜか自分の職業カードを見せびらかす。『弁護士』と書いてある。

「テメーはなんで攘夷志士じゃねーんだよォォォ!!」

「イヤ、だって生活不安定じゃん」

「だーーーもう、何でテメーと人生ゲームやると、いっつもこうなるんだよ!!」

そこからは皆で大騒ぎをして、始終笑いながらゲームをした。最下位だった銀さんは「オメーのせいだ」といってまた桂さんに八つ当たりした。ちなみに僕は一位だった。

暮れかけた空は晴れていて、夕日が目にまぶしい。見送り際までにぎやかだった。三つに分かれた道を、それぞれの家に向かっていく。見送った後で、東城と二人になるのがなんとなくむずがゆくなっていたたまれず、思わずもう一度振り向いたときだった。

逆光でシルエットだけがやけにはっきりと映る。

長い髪と、天然パーマ。

反対側の道へ向かう桂さんの袖を、銀さんが名残り惜しそうに引いている。何か話しているのか、二人はそのまま動かない。

ややあって、ゆっくり桂さんは振り返る。そうして二人並んで万事屋へ歩き出す。

「ヅラーーっ!早く来いヨ、今日はお前の金でファミレス行きたいアル!」

神楽ちゃんのはしゃいだ声がする。もう二人は門に隠れてしまって見えない。

「おっ神楽、良いこと言うじゃねーか!それで決まりだな」

どこか浮かれたような銀さんの声。

「ちょ、待て二人とも!さっきたらふく食べたばかりだろうが」

「別バラだヨ」
「別バラです」

二人の仲良くそろった声。
そうか。
僕はそこで気がついた。
きっとあのニ人は、M−1グランプリに出場したいのだ。
聞けば馴染だというし、実にいいコンビだ。突っ込みが少々甘くなるかもしれないが、きっと彼らならば勝ち抜ける。そう信じたい。
皆には秘密にしているのかもしれなかったが、僕はこの瞬間、はっきりと気付いてしまった。
思い返してみると、そういえば銀さんと桂さんは顔を合わせるたびにボケツッコミの応酬をくり返していた。桂さんがボケたときには全力でツッコミを入れる銀さんを思い出すと、ちょっと微笑ましいとさえ感じる。
もちろん他の人に言うつもりはない、僕の秘密だ。何といっても素人で出場するのだから、並大抵のことではない。きっとプレッシャーをかけられたくはないだろう。
遠ざかる三人の声を聞きながら、踵を返す。きっと東城が待っているに違いない。

そして僕は、また来年も、彼らとともに誕生日を過ごせることを願う。



おわっとけ




特に関西圏の方からは「オチが甘いってか落ちてねーんだよアホ!!」とおしかりを受けそうですすみません・・・
イチにはギャグは難しかったようです
というか、うろ覚えで書いてしまったら、ちょと人生ゲームを間違っていたです。職業そこまで選択の自由がなかった…
スルーしてやっていただければ;
バースデーファイター、楽しみです……(ここでひっそり支援)


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