見守る









その日、町で桂を見かけた。
お訊ね者のわりに桂はいつもマイペースに桂だった。笠もかぶらず、目立つペットを連れて、のこのこと真昼間の往来を歩いている。

手には紙袋。
長い黒髪。
白い羽織と藍の着物。
きっと懐中には、あの爆弾が入っている。
それともただの駄菓子かもしれない。

むこうから走ってきた子供がぶつかって、ちょうど桂に抱きつくような格好になった。彼は少しだけよろめく。
びっくりしている子供に、彼は何か声を掛けている。そうしてそっと子供の頭を撫でて、笑った。

俺はあいつにどんな風に思われているんだろう。
この子供に見せた顔を、俺は最近あまり見ていない。
俺もあの子供みたいに、抱きついてやろうか?きっと強烈なお返しが待っているに違いない。

子供は走り去り、桂はまたのこのこ歩き出す。
そこで俺は声を掛けてやろうと思ったが、何故か彼はとても切ない顔をしていたので、何も言えなくなった。
桂はこちらに気付かない。
俺にはわからないことが意外と沢山ある。彼の考えていることとか、そういったことだ。
わからないから無様に抱きあうんだろうと、妙に納得した。
わからなくても抱き合えるんだから、今はそれでいい。

とにかく、今夜は彼に抱きついてやろうと思う。
あの子供みたいに、桂があんな顔する暇もないくらいに抱いてやればいい。



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