焦がれる










自分に求心力があることを、高杉は本能的に知っていた。

人を使うことには慣れていたし、人は高杉に使われることを自ら望んだ。幼い頃は無意識だったその能力を、自分で操ることを覚えた。
もちろん悪意はない。彼はたまたまそういった性質の人間だっただけのことで、彼はその性質を受け入れただけのこと。
そんな高杉にも、ひとつだけ手に入らないものがあった。
玩具を強請るような「欲しい」とは違う、「恋しい」という感情だった。

思春期になって、桂が怒るたびに、笑うたびに、剣を付き合わせるたびに、桂の何かが欲しくなった。
桂は昔からおかしな奴だったので、高杉の持つ「人を集める性質」は、彼の前では何の意味を持たなかった。
欲しくて欲しくて、色んなことをしたものだ。いじめてやろうと思って、わざと酷いことを言って困らせた。差し伸べてくれた手を振り払った。彼の見せるあたりまえの優しさに付け入ろうとした。本気で拒絶できないだろう彼の性質を良いことに、卑怯な手を使って甘え、そのまま強引に抱いた。

桂はどうしようもなく馬鹿で、無理矢理に抱かれたくせに、高杉との距離を変えようとはしなかった。
肉体関係を持てば、人間関係なんて変わるものだろうに、桂は何があっても桂でしかなかったし、高杉と桂の距離は何があっても変わらなかった。

桂は、俺に対して恋慕の情など微塵も持っちゃいない。

そんなこと、疾うに高杉はわかっていた。
だから、抱くときにはかならずこうして腕を括る。
いつか完全に自分のもとへ落ちてくれるよう、願いをかけたはずのその手枷は、もう呪いとなってしまった。

高杉にはそれでも、ひとつだけ知らないことがあった。
桂にとって、そんな小さな手枷を解くことなど簡単だということ。
そして一番難かしいのは、高杉の呪縛を自らの手で断ち切ってしまうこと。

明け方、高杉は決まって切ない夢を見る。
けれどその時、彼は確かに一番欲しかったものを腕に抱いているのだ。



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