バカ







目が覚めると、銀時の目の前ではすっぱだかのバカが寝ていた。
同じくすっぱだかの銀時と同じ布団にもぐりこんでいる。
銀時は低血圧の頭で、ぼんやり昨晩のことを思い出して、ニヤけた。
今日のバカは目を閉じて寝ていたので、銀時はほっとしながら、バカの髪をいじって遊んだ。
バカは起きない。
あんまり起きないので、一人でニヤけていた銀時は急に恥ずかしくなった。
嫌味なくらいまっすぐな髪にだんだん腹が立ってきて、なんとなくバカの頭を引っぱたいた。

「あだっ」

バカは変な声を出して痛がった。

「何をする・・・!」

「いや、なんとなく」

「なんとなくだと?!そんな万引きした中学生のような言い訳がまかり通ると思っているのか!」

「悪ィ悪ィ」

自分でけしかけておいて、バカの相手が面倒になったので頭から布団をかぶる。
黙っていると可愛いところもあるのに、いったん話し出すとなんであんなにウザいのか。
残念に思っていると、バカは銀時のコンプレックスにまで言及してネチネチと説教をはじめた。

「だからそんな天パになるんだ。だからおまえはモテんのだ。何度言ったら貴様は」

「あーもー!!!うるせェんだよテメーはよ!」

銀時は心底むかついて怒鳴った。

なんで自分の誕生日に説教されなきゃなんないの。

布団をつかみ、バカの頭からかぶせておく。そして脱ぎ捨てたままだった下着をはいて、寝室を出た。



桂の住処に来るのは珍しい。
訳ありの身なので、桂は住処をなかなか教えたがらない。
銀時がこの部屋に来るのは、はじめてだった。
約束もなく泊まりに来たのに、部屋はこぎれいに片付けてある。
小さな台所を見つけると、喉が渇いていた銀時は、勝手に冷蔵庫を物色する。

冷蔵庫には、なぜかいちご牛乳が入っていた。
チョコレート、シュークリーム、プリンも入っていた。
ビスケットだとか、キャンディとか、冷蔵庫に入れてもしかたないものまで、たくさん入っていた。
桂が食べる訳はない。一瞬あのペットのことがよぎったが、奴は銀時のいちご牛乳には手もつけなかったと聞いている。

銀時は一瞬呆けて、その後急に笑いがこみ上げてきた。
なに、やってんのあいつ。
何てバカなの。

いちご牛乳を開けながら、寝室に戻ると、桂は襦袢を着て布団の上にちょこんと座っていた。

「ヅラ」

「ヅラじゃない桂だ」

さっき話を聞かずに出て行ったので、案の定桂は怒っていた。

「ヅラ君、コレ何??」

坂田は手のいちご牛乳を見せつける。

「ヅラじゃない。知らん」

「またまたぁ〜!お前、昨日覚えてないっつっってたけどさ」

「何をだ」

「覚えててくれたんでしょ?誕生日」

桂が黙った。
いつも迷惑をかけられて振りまわされっぱなしの銀時は、とても気分がよかった。
銀時はただニヤニヤ笑いながら、桂の答えを待っている。
そっぽを向いた桂の横顔に朱がさしているように見えた。

「ホントお前、バカだわ」

銀時はそう言って、桂の頭を軽く小突き、思い切り抱きしめた。


2×回目の10月10日に深い意味なんてないが、それでも銀時は、とても満足していた。



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