<言葉もなく> 春先ではあるけれど、深夜になると部屋の中でもすこし肌寒い。 桂が隠れ住む家屋はいつも小綺麗にしてあるが、古いつくりの建物なのだ。 この寝室は庭に面しているから、なおのこと。 そう広くない布団に襦袢姿の桂が横たわっている。いつもの無表情ではなく、しかめっ面で。髪は乱されて広がっているのに、襦袢の合わせには一分の隙もない。 桂は完璧に隙の無いようすで横たわる。少しの嫌悪感さえ感じさせるその目が銀時を見据えている。 色の無い唇は引き結ばれ、拒絶を示した。 「・・・おい、ヅラ」 「ヅラじゃない桂だ」 桂を見下ろす銀時は、桂のあまりにも場にそぐわない冷たい声に、ため息をつく。 「お前、こういう状況でなんでそんな態度なわけ?空気を読め、空気を」 「どんな空気を読めと?というか、貴様は俺に何を期待しているんだ」 そこを突かれるとちょっと辛い。銀時が返答に窮する。 たしかに再会してから数度、二人は再び関係を持ってしまっていたが、その間には何ひとつ決定的な言葉がなかったからだ。 「・・・まあいい。好きにするがいい」 組み敷かれているのに、桂はあくまで横柄な態度を崩そうとしない。 銀時の中で、苛立ちとともにかすかにサディスティックな心が芽生える。 「そうかよ」 じゃあ好きにするぜ、そう言って銀時は強引に桂の腕を掴む。 目を合わせながら指先を口に入れても、桂の表情は変わらない。憮然とした目がまるで見下しているかのようだ。襦袢の袖から手をしのばせ、しなやかな筋肉ののった細い腕に指を這わせる。銀時が片手で上着の前をあけると、桂は目を閉じて顔を背けた。それでちょうど首筋が差し出されたので、銀時はそこに噛み付く。 ココが弱ぇことは昔から知ってんだぜ。 先ほどから絡めたままだった桂の腕に力がこもったので、銀時は舐めていた耳から口を離した。襦袢のあわせを見つめる。一糸乱れぬ禁欲的なそれの下にあるものを、銀時はよく知っていた。 こんなに済ました顔をしているのに。 すこし笑って、銀時はその禁を解いた。 銀時は桂の首筋をしゃぶりながら、その顔を盗み見る。 さっきからずっと指と舌で胸をいじっているせいで、桂の頬が赤い。荒い吐息と、ときどきかすかに漏れる声。 けれど表情は硬いままだ。桂があまりに声を出さないので、銀時は多少イラつく。愛撫に感じている、というよりは、何かの苦業に耐えているみたいだ。 何、こんな責め苦に遭ったことでもあんの? そう思うと銀時はさらに苛立って、摘んでいた乳首をぎゅっと強くつねった。 「っア!」 桂が今度こそ声をあげる。 すぐにきつい眼差しが銀時のつむじに刺さったが、銀時は無視して鎖骨を強く噛む。桂の肩が震えた。 痕が残ることも気に留めず、噛んだ箇所を何度も舐める。 「銀時」 非難めいた声が掛けられる。 「何」 答えて乳首に吸い付く。音を立てて何度も吸い付き、くちびるを離しては指で押し潰す。済ました顔をしているくせに、唾液でぬれたそこはぴんと輪郭を起ている。 「どうした?・・・コレ」 含み笑って桂の目を捕らえ、指で弾いてみせる。一瞬だけ桂の表情がゆらぐが、すぐ元に戻ってしまう。 たしかにそこ以外の桂の肌は、風呂あがりでさらさらしている。暖かくて石鹸のいい匂いがする。でも銀時が欲しいのは、もっと滴るような性的な匂いだ。 舌先を何度も小刻みに動かして、見せつけるように舐める。片手は桂の胸板を這い回る。はさみこんだ桂の体がじれったそうにかすかに身じろいだ。最初は挑むような顔で目を合わせていた桂も、銀時のてのひらが腹部を撫でさすりはじめると顔をそらせた。うすく割れて引き締まってはいるが、下腹部はまだ柔らかい。下着のゴムに手をかける。 「待て、銀時」 桂の声にやっと焦りが滲みはじめる。 「何で?」 かまわず続けることもできたけれど、銀時は桂の変化を敏感に察知していた。 「何でダメなんだよ?」 「いいから・・・」 もう少し。 「何でダメか、言ってみろって」 もう少しで落ちる。 「・・・俺だけ脱いているなど、ふ、不公平だからだ」 ・・・ヤロウ。 銀時はあからさまに舌打ちして、桂をねめつける。 「勃ってんのが恥ずかしいだけだろ?」 「銀時、やめろ」 桂が脚をばたつかせ、しおらしかった腕が急に銀時を突っぱねた。 上ずった桂の声。 「銀時!」 「あー・・・。ほら、見ろよ」 「銀時・・・」 「やっぱ勃ってんじゃねえか」 無理矢理脱がせると、そこは形を成しはじめている。銀時の胸をつっぱねていた桂のてのひらに自分の手を沿わせ、そのまま背中にまわさせた。桂の先を弾くと、びくっと震えてまた形を変える。 「貴様・・・」 こんな段になってまで桂はプライドを捨てようとしない。けれどもうその高飛車な態度も冷たい視線も逆効果だった。禁欲ぶっているくせに、誰よりも欲に染まっているのだ。表面では欲しくない素振りを見せるくせに、本当はずっと欲しくてたまらないんだろう? 完璧を装う桂が、欲望とせめぎ合い、やがてみずから欲に溺れていく様は信じられないほど妖しく、ただ愛しくてならない。 「っ、っ、・・・くゥ」 銀時が桂の中に身を埋め、進む度に、桂の髪が乱れる。次は昔みたいに、括らせたままやりたいな、とぼんやり考えた。次、だなんて期待してみたり。 前回から少し間があったせいか、桂の中はキツかった。しかしよく濡らしていたので中まで湿っている。力をいれてやると、すぐに根元まで入った。 「ぁ、・・・ぁ」 桂の眉間に皺が寄せられる。暗くて細かい表情がつかみづらい。 桂が声を出さないことを銀時が嫌うのは、このせいだ。 いいのか、本当につらいのか、わからなくなる。 桂は歯を食いしばっている。 「おいヅラ、痛ェのか?」 「ヅ、ぁじゃな、ぃ・・・くぅ」 呼吸が浅い。銀時は少し焦って動きを止め、桂のこめかみに口づける。湿った肌と塩気。 桂を組み伏せていた腕に桂の手が触れる。 「桂?」 桂がかたく閉じていた目をあける。きつい眼差しがあらわれて、銀時は思わず覗き込む。 銀時を捕らえた瞬間、その眼差しが熔けた。 「銀時・・・」 先ほどとはうって変わり、桂の目がうるんでいる。薄い胸が上下し、とたんにそれがしっとり汗ばんでくる。 ぎゅっと締め付けられ、銀時は思わずため息をこぼした。 桂は落ちた。 「ぁ、銀時っ、ぁあ・・・ん」 「・・・ハァ・・・ッ」 一度自分の中の欲望を認めてしまえば、桂が落ちるのは簡単だ。 先ほどまでの凍てつくような眼差しは消え、熱にうかされたように銀時を求めてくる。桂の腕が肩にすがりついてくるので、銀時はそれを背中に回して桂の上に倒れこみ、ぴたりと肌とくちびるを合わせる。 せわしなく舌をからめ、てのひらで体中に愛撫を施し合う。 熱い。 ひたすらに腰を振る。 桂がその度にぬれた声をこぼす。 互いの匂いが部屋を満たしていくのがわかる。 目が合うと、胸の奥がひどく締め付けられる。 違う、本当はセックスの最中の睦言が聞きたいんじゃない。 もっとずっとその前に聞きたい言葉があるんじゃないのか。言いたい言葉があるんじゃないのか? 「っは、・・・桂・・・っ」 汗が額から滴って、ぽたりと音を立てて桂の胸に落ちた。 「あ!・・あ、銀時!・・ダメだ銀時、もう・・・っ」 「桂ァ・・・、ッあ・・!」 背中にまわされた腕が熱い。いや、触れあった全ての肌が熱くてたまらない。 桂が背をしならせ、脚が痙攣する。あたたかい体液の感触。 自分の体液と桂の体液が混ざり合うのを感じながら、銀時は深く目を閉じ、果てる。 今なら、本当に言いたかった言葉を言えるだろうか。 結局桂は達した後、すぐに意識を落としてしまった。体をぬぐってやっても、桂は起きない。 疲れていたのだろう、どうりで最近万事屋に来なかったわけだ。 眠っている桂は、こんな時だけあどけない顔をする。 まだ幼かった頃、よく笑って泣いた、あの頃のままだ。 そんなに無防備にされると、銀時はどうしていいものかわからなくなってしまう。 本当に言いたい言葉を言えば、こうして惰性のように睦み合うこともできなくなるような気がするのだ。こうして無防備な姿を見せるのも、「幼馴染」という関係だからじゃないのかとか。 銀時は考えるのが面倒になって、深いため息をひとつ落とした。眠っている桂の耳元にくちびるを寄せるが、やっぱりその言葉は言えなかった。 言葉が無くても、わかり合える。さっきまで散々体でわかり合っていたばかりだし。 銀時は桂の髪をくしゃくしゃにかき回した。 もう少し、この関係に甘えていたかった。 もう少しだけ。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ <言い訳と、反省> ・・・エロに挑戦してみたのですが。 方向性が定まっていない、なんともまとまりのないパサついた話になってしまいましたね! 最中はどこまで細かに書くべきなのかわかりかねています。 ねちねち書きすぎてしまった。 リベンジせねば・・・ |