嫉妬






二人は荒い息を整える。
汗ばんだ桂のからだは熱く火照って、直後の余韻に酔ったのか、すっかり力を失っている。
高杉はわりあい無造作なところがあって、達した後での後始末というものをあまりしなかった。桂の頬から胸にかけて、べっとりと自分の精液で汚しておきながら、それを拭うこともしない。黙って桂の上から身を引いて、煙管をやり始めた。

「・・・やめろ」

桂が小さく抗議する。
桂は頬に高杉のあたたかい体温を感じていた。つんと栗の花のような青臭い匂いがする。

半年見ないうちに、この男は随分変わった。
確かに高杉は、戦の最中であっても風情とか粋とかいったものを好んだ。だから煙管に手をつけるのも、別段変わったことではない。けれど花魁のように長く紅い煙管は、いっそ悪趣味のようにも見え、桂は眉を寄せる。
行為にふけった後、何も纏わずに紅い煙管を銜える高杉の姿は、正視できないほどに妖艶だった。

桂が重い体を起こしたとき、頬や胸元を濡らしていたものが、つっと流れた。それが布団を濡らしてしまう前に拭いたくて、懐紙を引き寄せようとするが、その手は高杉に止められる。そのまま高杉は少し笑んで桂の胸に自分の体液を擦りつけた。
まだ暖かくねばついた精液を潤滑油にして、高杉がゆっくり桂の乳首を押し潰す。達したばかりだったが、桂の乳首はふっくらと立ちあがる。

こういうわがままなところは変わっていない。
何も言わず、ただ目を細めて口の端を上げる。これだけで高杉は桂に自分のわがままを聞かせることができるのだ。桂はもう自分のそういう性質をよく理解していたので、あきらめたように目を閉じた。
同じものを欲し、同じ経験を欲し、甘やかされることを望んでいつも桂を困らせていた幼馴染は、今はひとりの男として桂自身を欲し、無茶を言う。

高杉は煙を深く吐いたあと、そのくちびるでもう片方の乳首を口にふくんだ。
窓を開けていないので、煙が部屋にたゆたう。苦みの中にほんの少しだけ甘い香りがした。

高杉が音を立てて吸い付き始めたので、煙管の灰が落ちるのを気にした桂は、傍らにあった煙草盆を右手で手繰り寄せる。宿の値段にはそぐわない程、塗りの美しい朱の煙草盆だった。
桂は灰を捨てるよう促したくて名前を呼んだが、高杉は一向に応じない。

「高杉、灰を落とせと言っている」

桂は盆から火入れを取り出し、高杉の目の前に差し出した。高杉はまじまじとそれを見つめ、ふと桂の手繰り寄せた木箱に視線を落とした。

「悪ィな、気付かなかった。・・・俺ァ左側は見えねェんだ」

そうだ。
高杉は戦で片目を失っていたのだ。そのときに高杉があんなに血を流していたことを知っている桂は、はじかれたように高杉を見た。未だに巻かれている左目の包帯。それ以来高杉が包帯を外したところを、桂は見たことがなかった。

「すまん」

「何故謝る?」

高杉は煙管を深く吸って、桂の顔にかからないようにゆっくり煙を吐く。そのまま桂の手の中の火入れに灰を落とす。そのまま高杉は火入れを掴み、煙管とともに傍らに置いた。

桂は高杉を覗きこむ。
そのまま二人はゆっくりと深く、くちびるを合わせた。

光が半分になってから、高杉はそれ以外の感覚を使ってものを見るようになった。戦場での敵の息づかいや、幕吏の俳諧する足音や、てのひらに感じる肌の感触、髪の匂い。

「両の目でお前を見られりゃあな」

高杉が喉の奥でくっと笑う。

そんな風に自嘲気味に笑うなど。
本当に変わったと、桂は思う。

桂は高杉の今の潜伏先のことを考える。
高杉を匿っているのは、ある女だった。
高杉と桂は、契った男女の仲じゃなし、あれこれと詮索できるような明確な関係ではないのだが。

あの花魁煙管も、あの女のものなのだろう。

高杉の変化に女の影がかいま見えて、桂は複雑な心情を隠すので精一杯だった。



高杉のやりかたは神経質で粘着質だった。
高杉は丹念に桂のふとももを愛撫する。撫でさすって舌を這わせ、きわどい部分に吸った痕をつける。
再び体温が上昇し始める。桂はもう反応していたが、ふとももにぬめった感覚を覚えて見やると、高杉もまた反応しており、それを桂のふとももに擦りつけていた。
桂が小さく声を出すと、高杉は桂にのしかかって脚を抱え、そのくるぶしを執拗に吸った。脚から這いのぼってくるその感覚がもどかしくて、桂は無意識に身をくねらせる。

ぐっと腕を引かれる。さらに腰を抱えられて、桂は高杉の上に乗ることを要求されているのだと察した。深く息をついてから、高杉は桂に自身を当てがう。

「んぁ、あぁぁ・・ぅ」

あの女とはもう何回寝たのだろう。差し貫かれる瞬間に桂が考えたのは、そんなことだった。

最初のうちは桂の先や根元をいじって遊んでいた高杉も、段々余裕がなくなってきたのか、次第に桂をゆさぶる力が増す。
桂は包帯の上から何度も高杉の左目にくちづけを落とした。
高杉は「そっちじゃねェよ」とうすく笑って、舌をだしては桂のくちびるを舐めた。

あの女はこの男の目を知っているのだろうか。
両の目があった頃は知らぬだろう。
それを失った時のこの男のことも。

桂は、得体の知れない嫉妬と優越感に苛まれながら、忘我を極めた。ぐっと奥まで突き刺さる感覚に、桂はうっすら高杉が達したことを悟る。じわじわと体中を這う熱い感覚に、腰から下が総毛立つ。断わりもなく中に射精されたのだ。

桂は脱力し、高杉の胸に倒れ込んだ。汗ばんでいる髪を梳くと、高杉がくちびるを寄せてきたので、惰性で何度もくちづける。高杉が身じろぎ、ゆっくりと体をほどく。抜かれてから少し間をおいて、出されたものがつうっと垂れる。とろとろになった桂のそこから、高杉はゆっくり自分の精液を掻き出した。

「待て高杉、・・・もうこれ以上は」

「わかってる」

もうしねェよ、そう言って高杉は掻き出した自分の精液を、桂の精液と混ぜた。

「そんなもの、早く始末しろ」

「・・・ああ」

桂がとがめても、高杉はずっとそれを続ける。

こうして甘えてくるところは昔と変わっていない。この男がまだ変わっていないところを確認したくて、高杉の好きにさせているのだろうか。
では高杉は何故こうしているのだろう。昔と違って、もう高杉には女がいるのに。やはり変わらない幼馴染の姿を見ていたいからなのか。体は近いのに、二人はいつも遠い。

今はもう俺のものでないのなら、せめてこの失くした目だけは俺にくれ。

桂はその包帯にくちづけてから、今は煙管を吸ってくれるなとばかりに深くくちづけた。









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高桂といえばなんとなく高杉様の嫉妬が思い浮かぶイチですが。
今回は逆で。高杉様の嫉妬になったらちょっと書くのが大変そうなので(笑)
なんだか無駄にエロくなってしまって、この前の銀桂でエロ悩みまくったのはなんだったんだろう・・・と思います。キャラの問題なのかそうなのか。
因みに勝手に出てきた高杉の匿い先の女の人は別に高杉さんとはそんなんじゃないです。イチ設定ではおばちゃんです(笑)。勝手に妄想で嫉妬している妄想キングの桂さんを書きたかっただけです〜・・・。史実とは一切関係ないですのであしからず!

しかし本当にヤマもオチも意味もない。ほんとすみません。
しかし楽しかった。


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