幼いけもの






襖の向こうに何があるのか、銀時も桂も十分に承知していた。
時折悪夢に魘されているのか、苦しそうなうめきが聞こえてくる。そのたびに桂の意識がそがれるのを、銀時は乱暴に桂の乳頭を潰すことで戒める。

「何?気になるの?高杉」

桂の耳元でささやく。思った以上に濡れた声が出て、銀時は図らずも興奮した。

「気にならんわけないだろう」

桂の声にはかけらも熱がない。ただ気づかれないように、という必死さがにじみ出るのみだ。

「なあ、こういうの・・・興奮しねぇ?」

目の前にある小さな耳を食みながら、銀時は本格的に桂の腕を縛り始めた。背を抱え込まれた桂は、銀時の足に動きを封じられている。抵抗する術といえば、その視線ぐらいだろうか。その視線も今は襖を隔てた高杉に向いている。
帯は長くごわついていて、縛るのにはあまりふさわしくなかった。きつく縛ることができないのがもどかしいのか銀時は舌打ちする。

「やめろ銀時、これ以上は」

「高杉に聞こえちゃうから?」

「そろそろ水を変えてやらんと」

「どうでもいいだろ、そんなこと」

桂の手首に銀時の爪が食い込む。桂は痛みに驚いて、声を上げそうになった。

「何をする・・・っお前、今夜はおかしいぞ。一体どうしたというんだ」

「別に。いつもどおりだって」

言いながら彼はしゃぶっていた耳たぶから口を離し、首筋に歯を立てた。
脳天に突き抜けるほどの痛みを感じて、桂は指先を痙攣させた。悲鳴も声にならないようだった。
銀時は自分のつけた噛み痕を舌で何度もなぞる。暗くてそこがどうなっているのかよく見えなかったけれど、独特の味がして、そこから出血していることを知る。血のにおいに酔ったように、銀時は何度もそこに舌を這わせる。それだけでは飽き足らず、銀時は傷口をくちびるで覆い、きつく吸い上げた。

「っ」

痛みで荒い息を吐いてぐったりしていた桂は、血を吸われる奇妙な感覚に震える。

「もう、やめろ、銀時」

それでも銀時はくちびるを離さない。そのまま濡れたくちびるを鎖骨まで這わせていく。

「もう、いい加減に、しないか。こんなところで」

薄暗く冷えた廊下は、いつ誰が来てもおかしくない。高杉を心配した誰かが、見舞いに来る可能性はあるのだ。
高杉は幕府からの粛清を受け、率いていた鬼兵隊を壊滅させられていた。高杉はそのときに左目が潰れるほどの大きな傷を負った。血まみれで運ばれてきた高杉を見たとき、桂はそのあまりの凄惨さに青ざめた。
なけなしの痛み止めを飲ませてはいるのだが、おそらく熱も出てきているのだろう。高杉の息遣いが荒くなるのが襖越しにもわかる。

「何、そんなにアイツが気になんの?」

「痛み止めが切れるころだ。飲ませてやらないと」

桂が言い終わらないうちに、銀時は桂の腕を締め上げた。

「銀時!」

「聞こえるぜ?」

高杉に。
銀時は冷たい声でそう言って、縛り上げた結び目をぎりぎりとねじりあげた。

「っ、っ!・・・あ」

「俺さぁ、知ってんだよね、高杉の野郎がお前に妙に執着してんの」

「銀時っ、やめろ、痛い」

「お前がそれに気付いてんのも」

銀時の爪が桂の手の甲に食い込んだ。もう銀時の声は桂の耳に届いていない。

「痛い、い、っ!」

ぶちっといやな音がして、そこから桂の体内に銀時の爪が進入する。

「・・・高杉が知ったら、どう思うんだろーな、俺達が毎晩ヤってるってさ」

銀時が片手を桂の太ももに這わせる。桂はいよいよ本気で抵抗し始めた。桂は華奢ではあるが力はある。言葉で動きを封じるのが限界だと悟った銀時は、後ろから桂に馬乗りになった。

「うっ・・・やめろ」

完全に動きを封じられて、なお抵抗する桂を、銀時はじっとりと見つめた。どんなに苦しいときでも、常に完璧な姿でまっすぐと立っている男が、今自分に組み敷かれて無様に倒れている。それは銀時にとって神を汚す行為であり、後ろ暗い喜びに満ちていた。
銀時は不自由な手を必死に動かす桂の髪を鷲掴み、痛みに痙攣している脚を強引に膝で割る。

「!」

その動きの意図を察した桂は目を見開いて、銀時の膝を蹴り上げようともがく。そのせいで思うように動けなくなった銀時は舌打ちして、膝頭で桂の脇腹を蹴飛ばした。どっと鈍い音がして、桂の呼吸が一瞬止まる。
その音に高杉が気付いたか、銀時は動きを止めて耳をそばだてる。高杉が起きる気配はなく、ただ魘されている声がするのみだ。それを確認して銀時はおとなしくなった桂の髪をゆっくりと愛撫した。
引っ張ってしまったせいで乱れてしまった髪を整えてやる。顔が見たくてそれをかきあげると、桂は青ざめて震えていた。それでも意識だけははっきりしており、鋭く銀時をにらみつけてくる。

「貴様、気がふれたのか」

「何、その目」

「もういい、俺をどうにかしたいなら、後で好きにするがいい。だが今は高杉を看なくてはならん。・・・どけ」

いくら握り潰そうとしても、決して折れぬ桂の目が、そして桂の口から出る高杉の名が、銀時を追い詰める。

「何なの、お前。高杉の方がいいの」

銀時はいきなり桂の着物の裾を捲り上げ、下穿きを引き裂いた。その残骸を取り払うこともせず、いきなり銀時が桂に自身を突き立てた。

「っっ!!!・・・・・ぅ、っぐ、」

桂の右脚を後ろから持ち上げ、大きく開かせる。そのまま持ち上げた太ももを強く引き寄せ、狭い道をこじ開けるように深く抉る。下肢の自由を奪って繋ぎ目に荷重をかけ、抵抗するそこを無理矢理犯した。
途中で何度か引っかかるたび、銀時は指でそこをこじ開けた。終いにはそこが濡れてきたので、血が出ていることがわかる。可哀相だと思いながらも、銀時はひどい快感を覚えてしまい、どうしようもなくそそられてしまう。
桂はもう抵抗することもできず、されるがままになっている。ただ時折硬い木の床を引っかく音がして、震える桂の息遣いが聞こえた。こんな酷い目にあっても、桂は声も上げずに耐えている。

すぐ近くで苦しんでいる高杉のために。

そう思うと銀時は気が違ってしまいそうで、ぎりっと奥歯を噛み締めた後、桂をめちゃくちゃに揺さぶった。

「声出せよ」

桂からの返答はない。

「泣けよ」

桂はただ耐えるように目を硬く閉じている。そこに涙は浮かんでいない。

「助けてくれって、高杉に泣いて縋ってみせろ」

桂はひたすら首を横に振る。縛られた手や足は体温を失い、もはや動かすことままならぬのか、だらりと力を失っている。激しく律動を繰り返すと、桂の血があふれてくる銀時の体液と混ざり、音を立てた。
中は暖かく、引き連れるように銀時を締め付けてくる。むっと血のにおいが漂ってきて、銀時は先ほどのようにそのにおいに酔ったようにひたすら腰を振る。
桂の白いうなじを吸い、歯を立て、血を飲む。きつく潰した乳頭からもじわりと血がにじんでいる。
戦場では何者も手を触れることのできない桂を血に染め上げられる快感。

「ぎん、とき・・・」

桂の掠れた声がする。
ああこんな声、ほかの誰にも聞かせるな。
高杉のうめき声が聞こえても、桂はもうそちらを見ることはない。銀時はそれに深く安堵する。
自分で傷つけておきながら、血塗れの桂が可哀想で愛しくてたまらなくなり、銀時は夢中で桂にくちづけた。

「かつ、ら・・・」

銀時は桂の名を呼んで、桂の奥深くで果てた。達したとき、それを感じたのか桂が声を上げた。銀時、と呼んだその声は、なぜか切な過ぎる音がした。





結局、部屋に連れ帰ったところで銀時は、自分が桂に酷い怪我を負わせたことに気がついた。血塗れの体をぬぐってやると、そこには引っかいた傷や噛み傷、内出血の痕などが散らばっている。布団に寝かせてやったけれど、そのときにはもう桂はほとんど意識を失っていた。その光景は銀時を深く後悔させた。

気付けば眠る桂の指が、髪を撫でるように銀時の頭に乗せられている。
何事もなかったような、いつもの寝顔。
銀時はすべてを許されたような気がしてしまった。
その手をとり、擦り切れた手首の傷をなでて、指を絡める。爪を立てて抉ってしまった手の甲に唇を落として、銀時もゆっくり桂を抱いて、意識を手放した。

桂がが自分以外にほかの誰かを選ぶなんて、許せなかった。
自分にだけ見せてくれる苦しそうな顔が愛しくてたまらなかった。

それをただ力のままにしか表現できない自分がもどかしい。もっと他に手段はあるのだろうけれど、それを知るには戦場はあまりにも残酷な場所だった。

幼い銀時は、ただあまりにも無知だった。









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言い訳
じつはこんな感じのも好きなんですよ、ほぼ読み専ですが。
しかしどうしてもイチは桂がかわいくてならないので、あんまり酷いことしたくないので微妙なぬるさになってしまった。
イチの坂田は病んデレのようですな
こんなの坂田じゃない!というツッコミはごもっともすぎてもう言い訳のしようもありません。
本当は鬼畜系は高桂が一番しっくりくる、書きやすいんですが、あえて銀桂にて。
桂と高杉は、兄弟みたいに思ってます。だから普通にただ心配でならない、おたがい。っていう設定。
本当すみませんでした
特に桂さんと、とばっちりな高杉さん。ゆっくりけが治してね。


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