莫迦なふたり 指先が熱くて桂は参ってしまった。こんなにこの男は熱かったのか、と驚く。いつもは照れ隠しなのかよく喋るのに、今日に限ってはほとんど何も言わない。 衝撃が掠れた声になってこぼれ落ちる。熱くて濡れた感触に支配されながら桂は考える。 莫迦じゃないのか、この男。 まだ包帯だらけだ。それなのにこんなことをしている。普段よりも息が荒い。苦しそうに眉を寄せ、歯を食いしばっている。無理をしているのか。そこまで考えた桂の胸にせりあがってくるものがある。 「銀、時、貴様、……大丈夫、なのか」 激しく上下を繰り返す脇腹を包帯の上から探る。脈を打って熱い。その脈の速さに不安が募る。 「おい、本当に、無理を、する…な……あぅッ!」 瞬間、深く攻めこまれた。無理に押し入ろうとする痛みと、そこから広がる快感にうめく。布団についていた手が腰から脚をつたって、桂の太ももを抱え込む。そのまま銀時は体を崩し、桂にすがりつく格好になった。 「やはり、無理をして、いるだろう……バカか、貴様」 「うっせーな……っ!」 声には苦いものが混じり、震えていた。短くなった髪をぐしゃぐしゃにかき回される。 視線がかち合う。やせがまんなのか、銀時はそれでも笑った。 「無理、してんのは…テメーも、だろが」 桂は笑えなかった。 「派手に、やられたじゃねーの……。腕、落ちたんじゃね?」 ぬるっと引き抜かれる感覚に背中が反る。ふ、と銀時の笑う気配がした。 「死んだフリまで、しやがって」 軽口を叩かれる。それなのに、肩を攫む手の力がやたらに痛くて、桂はしかめる。 「莫迦なこと、してんじゃねーっつのっ!」 その瞬間、これ以上ないくらいに深くまで焼かれ、桂は悲鳴をあげた。 「……だから、言ったじゃねーか、…最後まで、美しく生きろって……」 まさか銀時がそれを覚えているとはつゆほど思っていなかった。もうずっと前、桂に生きる意味を与えた言葉だ。ずいぶん昔のことだったし、再開してから昔の話などほとんどしたことがなかったから、忘れているんだと思っていた。 「あっさり死んだフリとか、してんじゃねーよ、ハゲ」 茶化したような口調から、彼の精一杯が透けて見える。 「この際、無様でもいいじゃねーか。ゴキブリみてーにしぶといな、っつって、笑ってやるからよォ」 まだ血のにじむ無骨な手が、一度は自分で乱した桂の髪を、少し雑に梳いた。 「銀時」 「こんな、笑えねーギャグじゃなくてさ」 腐っているとはいえ、二人はもうずいぶん長い付き合いだ。銀時が何を言いたいのか、桂にわからないわけがない。 「……そうか、そんなに俺が心配だったか」 桂は愉快な気分になってくる。 「は?何言ってんの?心配とかしたことねーし」 「次に怪我したら、ちゃんと貴様のところで世話になるから、安心しろ」 「イヤイヤイヤ、やめてくんない?善良な市民を厄介事に巻き込むなっつってんだよ!」 慌てたように銀時は桂の頭をひっぱたいた。それでも桂は抵抗せず、抵抗するどころか、そのくしゃくしゃの髪の毛をなでてやる。 「髪、短いのもイケてると思ったが。お前が言うなら、伸ばしてやろう。お前の我儘なら聞いてやる」 「別に、なんも言ってねーし!」 テメー、調子乗んなよ、言って銀時は体を起こし、ぐっぐっと桂を攻め立てた。 「んっ!んぅ、は……!」 「心配なんざ、これっぽっちも、してねーつってんだろーがァァ!!」 「ああ、俺が無事だと、最初から信じていたのだろ、……っ」 言うと、銀時は切ないような、いとしいような顔を見せて、また笑った。 「莫迦だな、お前」 「莫迦じゃない、か」 「桂」 恋人同士のセックスというより、共に戦った戦友を讃える抱擁に近かった。それでも、それだけで足りない感情があるから二人はこうして抱き合う。愛とか恋とかで片が付く関係だったら、あるいはこんなに面倒なことにならなかったかもしれない。 それで何度も何度も遠回りばかりする。けもの道ばかり選んで、進んで貧乏くじを引きながら生きている。 だが、それでもよかった。 唇を合わせる。 あとはひたすら、何も言わずに、そのままのぼりつめた。 それは、二人して船から宙に飛び込んだ、あのすがすがしい感覚にひどく似ていた。 |
映画記念第二弾
どんだけ映画に便乗する気なのか…
ウッカリこの前のを読み返したら、あんまりにもラブ要素がなくて大変反省したのです。
それで悔しくなったのでラブを目指してみました。
と思ったら、なんかポエムになってました
なんかフワっときた萌えの赴くまま書いたので、深くは追求しないでいただければ幸いです
だから紅桜はほんとハードル高いのに…それでも何度も同じ過ちを繰り返してしまいますね
銀桂っておそろしい子です
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